鴨長明 『方丈記』ー原文とその朗読

鴨長明 『方丈記』、その原文と朗読

鴨長明 『方丈記』 朗読版
………鴨長明の名作を朗読せむとてこれを編するものなり。下掲載の大福光寺所蔵『方丈記』に寄りて、おほよす歴史的仮名遣いを旨(むね)とし、仮名を漢字に、漢字を仮名に改むることいくそばくぞ。諸本にて若干の言葉を改め、且つは又、その意を参照に加ふる。常の如くして、[薄き緑]はその意味を解説し、青き落書はひたすらに文脈を補ひたるに過ぎず。いずれも原文にはあらざるべし。
鴨長明 『方丈記』 解説版
………さらなる書き込みもなされたる解説版につき、上と同じ朗読とは言へども、好みの方をあたるべし。自らの覚書を兼ねるものにて、その点注意あらんことを。
大福光寺所蔵版にもとづく『方丈記』
………大福光寺所蔵版の『方丈記』の影印(えいいん)をもとに、片仮名を平仮名に直し、「ヽ」を「ゝ」とし、かつ濁点、句読点などの記号で補ったうえ、時乃志憐により、段落といくつかの見出しを加えて、読みやすくしたもの。漢字と仮名の書き換えは行わず、濁点や句読点などを除き、平仮名を片仮名に直せば、原文に立ち返ることが可能であるが、下に紹介したサイトに、原文が掲載されているゆえ、そちらの方が有益であるし、改行の箇所まで含めて正確である。

方丈記の現代語訳、およびその考察

鴨長明 『方丈記』 現代語訳とその朗読
………言葉のリズムを音楽のように奏でた極めて特異な作品である方丈記を、沢山の現代語訳が台無しにしているのを知り、またそれによってこの作品を軽蔑する学生などが、かつてのわたしがそうであったように、新たに生まれないことを望み、ここに原文に従った現代語訳を試みるものである。合わせて、いくつかの現代語訳の批判を、下に展開する。
『方丈記』 あるいは正統なる現代語訳についての若干の考察
………実際は、上の現代語訳を提示するに際して行った若干の考察を、手直ししたものであり、これに合わせて一番下に示す現代語訳の改訂作業を経て、上の現代語訳へといたったもの。角川ソフィア文庫版・講談社学術文庫版・および角川ソフィア文庫『ビギナーズ・クラシックス』版の『方丈記』の現代語訳や大意を取り上げた。この『考察』と『覚書』から逆説的に、原文のすばらしさが見いだせるのではないだろうか。時乃永礼版。
角川ソフィア文庫版 『方丈記』 覚書
………『考察』に際して文庫全体を眺めた時の覚書。 時乃永礼版。
講談社学術文庫版 『方丈記』 覚書
………『考察』に際して文庫全体を眺めた時の覚書。 時乃永礼版。
現代語訳 『方丈記』 への改訂覚書
………『考察』に合わせて試みた『方丈記』の現代語訳の、改訂と推敲に関する覚書。

方丈記の概説

方丈記 (ほうじょうき)
………鴨長明(かものちょうめい・かものながあきら)(1155/1153-1216)が、慶滋保胤(よししげのやすたね)(933以後-1002)の漢文による随筆『池亭記(ちていき)』をベースに、これを再構築せんと目論んだ、今日から見てもきわめてユニークかつ独創的な文学作品。特に着想を得たというレベルの問題ではなく、それをもとに新たなる創造を行おうとした点、『池亭記(ちていき)』に対して明確なシンパシーを作品に織り込む一方で、それとは異なる精神世界を築き上げた点は、注目に値する。また、和漢混淆文(漢字と仮名を混在させた文章)の随筆として、隠棲や無常をキーワードにして語られることも多い作品である。
写本について
………鴨長明の自筆との記入のあるものが大福光寺所蔵の片仮名書きの『方丈記』であるが、他に古本系と流布本系を持つ広本(こうほん)、より叙述の少ない略本、などさまざまな写本を持つ。大福光寺所蔵が自筆かどうかは結論を見ていないが、古本系のもっとも古いかたちであろうと考えられつつあるようだ。幸いにして岩波文庫のワイド番の『方丈記』に写真に写し取られた影印(えいいん)が載せられているので、これにより、大福光寺所蔵版を掲載。合わせて、時乃志憐の編纂による朗読版を掲載致す。
池亭記(ちていき)の朗読 (直接音声ファイル)
………慶滋保胤(よししげのやすたね)(933以後-1002)の漢文による随筆『池亭記(ちていき)』を参考のために朗読する。読み下しは角川ソフィア文庫の『方丈記』に掲載されているものを使用。テキストはこの文庫本を参照されたし。『方丈記』の構成のアウトラインは、池亭記の前半部分の都の叙述から、後半部分への己の住まいと生活へと移行するというプロットを元にしたものであるが、その前半部分の都の祖述を年代記的な災害の叙述へと置き換えると同時に、それを自らの前半生の代用として、後半の我が庵と現在の生活へと繋げていくという、きわめてドラマチックな方針が取られているために、『池亭記』が文学作品としてはいささか底の浅い、観念的な作品であるものを、『方丈記』は作品としての考察に値する、と同時に我々が近付きさえすれば、人間の普遍的な情緒性を内に秘めたような、すなわちこころに訴えかける作品となっている。そうして一貫して住みかというものが、全体構成を規定している。もっともその価値の根源には、まさに鴨長明が自らの精神を、観念的な悟りきった坊主の嫌みのような祖述ではなく、自らの哀しみも喜びも、未練も悟り切れない思いも、嘘いつわりのないように『方丈記』のなかに込めているという、後年の和歌の精神と同一の境地があるのだけれども……

鴨長明について

鴨長明の年号暗記(そればっかやね)
………ひと/\り(11)
     いつ見(53)の人に/\(1212)逢ふ
    ひとに一炉(1216)を 借るべきものかは
鴨長明の生涯略歴
………鴨長明 (かものながあきら・通称かものちょうめい)。 久寿2年(1155年)(あるいは1153年)生まれ、建保4年閏6月10日(1216年7月26日)死去。
 京都市左京区にある賀茂御祖神社(かものみおやじんじゃ)(下賀茂神社・しもがもじんじゃ)(葵祭りでも知られる)に、神職を司る鴨一族の息子として生まれる。父親の鴨長継(かものながつぐ)は正禰宜(しょうねぎ)であり、下賀茂神社においてはトップの地位にあたるが、長男は鴨長守、長明は次男であった。母親は不明。七歳の時、二条天皇の中宮の推薦により従五位下を授かるという異例の昇進街道の一歩目を踏み出すが、ついに二歩目は踏み出せず、生涯従五位下のままであった。
 1172、73年頃に父親が亡くなると(母親も早期に亡くなっていた可能性がある)、やがて父親の跡目争いや家の相続などの争いが一族内に起こり、それに敗れたと考えられる。すでに妻子があり、後にこれを捨てた可能性もあるが、詳細は不明である。
 音楽と和歌に優れ、琵琶を中原有安(なかはらのありやす)に学び、和歌を俊恵(しゅんえ)(1113-1191)[百人一首「よもすがらもの思ふころは明けやらぬ閨(ねや)のひまさへつれなかりけり」の作者]に学ぶ。すでに1181年に自らの家集『鴨長明集』を自選し、『千載和歌集』にも一首選出されるなど、歌人としての名声を高めていったが、後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)にその才能を認められると、数々の歌合で活躍。1201年の和歌所が設置されると、その寄人(よりうど)(選歌などを行う)として撰ばれることとなった。彼も選定に加わったであろう勅撰和歌集は、1205年になって『新古今和歌集』として完成し、彼の和歌も十首を収めることとなるが、その前に、彼は都を逃れることとなる。
 1204年、後鳥羽上皇の力もあり、賀茂御祖神社の摂社(せっしゃ)、つまり属する神社である河合神社の禰宜(ねぎ)に抜擢されそうになるも、親戚の鴨祐兼(かものすけかね)の反対により断念。なお禰宜職を与えようとする後鳥羽上皇の沙汰を振り切るように、謹慎して家に籠もり、後に遁世して世捨て人となった。
 出家して、蓮胤(れんいん)の法名(ほうみょう)をいだき、大原に移る。1208年には日野に移り、いわゆる方丈の庵を結ぶ。1211年には関東に旅し、時の将軍である源実朝(みなもとのさねとも)(1192-1219)と会見。和歌の話などを行う。この頃、和歌の随筆的歌論書である『無名抄(むみょうしょう)』を執筆、1212年には『方丈記』を記し、さらに晩年、出家した世捨て人の説話集である『発心集(ほっしんしゅう)』を執筆しつつ、1216年に62歳で亡くなった。
鴨長明 『伊勢記』
………『方丈記』執筆よりまだ若き日、伊勢への旅に記した和歌と紀行文。本文は散逸。抜粋などより残存するものを集めたもの。とは言うものの、本人の作品にはあらざるか。
鴨長明 『夫木和歌抄、収録和歌』
………『夫木和歌抄』に私撰された鴨長明の和歌を、昭和39年風間書房より出版された『校注鴨長明全集』(簗瀬一雄)より掲載し、その朗読を行ったもの。この和歌は後年の家集より取られたようだが、初期の作品とは著しく異なった、当時だけでなく今日に於いても、きわめて優れた和歌が、まがたまの連なっているのには、驚かされる。
鴨長明 『発心集 序』
………鴨長明の『方丈記』ならざりし言の葉を紹介せんとて、仏教説話集『発心集』の序と第一話を掲載、朗読するものなり。

方丈記、リンク

ウィキペディア
………「方丈記」の概説
ウィキペディア
………「鴨長明」の概説
青空文庫
………青空文庫に納められた「方丈記」だが、著作権切れの書籍に基づくしがらみから、きわめて有用とは言いきれない代物になってしまったようだ。
りぞうむ文学事典
………「やたがらすナビ」の管轄下にある「りぞうむ文学事典」に、「大福光寺本方丈記」とその校訂版あり。
方丈記DB
………「芭蕉DB」のサイトで知られた伊藤洋さんの、『方丈記』のコンテンツ。解説、現代語訳あり。
千人万首 鴨長明
………「やまとうた」のなかの「鴨長明」の和歌紹介

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