虚子の俳句解説書『俳句はかく解しかく味う』に居士を解説したる処ありければ、それのみ朗読したる者なり。本文は俳句のみ掲載すべし。
旅人や馬から落す草の餅
蜂の子の蜂になること遅きかな
家主(いえぬし)の無残に伐(き)りし柳かな
木々の芽や新宅の庭とゝのはず
流れ得ざる水の淀(よど)みの椿かな
たえず人憩(いこ)ふ夏野の石一つ
夏野尽きて道山に入る人力車(じんりきしゃ)
実方中将(さねかたちゅうじょう)の墓にて
君が墓筍(たけのこ)のびて二三間(けん)
五月雨(さみだれ)の合羽(かっぱ)つゝぱる刀かな
椎(しい)の舎(や)の主(あるじ)病みたり五月雨
病人に鯛の見舞や五月雨(さつきあめ)
門前のすぐに坂なり冬木立(ふゆこだち)
口紅や四十(しじゅう)の顔も松の内
暖かな雨が降るなり枯葎(かれむぐら)
草庵
雪の絵を春も掛けたる埃(ほこり)かな
手に満つる蜆(しじみ)うれしや友を呼ぶ
連翹(れんぎょう)や紅梅散りし庭の隅
野道行けばげん/\の束のすてゝある
浦家先生の家に冷泉あり
庭清水藤原村の七番戸(ばんこ)
地に落ちし葵(あおい)踏み行く祭かな
梅干すや庭にしたゝる紫蘇(しそ)の汁
葭簀(よしず)して囲ふ流れや冷し瓜(ひやしうり)
鴨(かも)の子を盥(たらい)に飼ふや銭葵(ぜにあおい)
稲刈りてにぶくなりたる螽(いなご)かな
小庭
野分(のわき)待つ萩(はぎ)の景色や花遅き
煤掃(すすはき)の埃(ほこり)しづまる葉蘭(はらん)かな
2011/8/22