河東碧梧桐『獺祭書屋俳句帖抄』朗読

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河東碧梧桐『獺祭書屋俳句帖抄上巻』抜粋朗読

抜粋朗読について

  句の選別、自作俳句、批評。
 いずれも虚子の方勝れど、異なる視点もあれば、屁理屈じみたる処もありけれど、取るべき物は取るべし。覚え読みにて、読み違い、語り逃げの変換、割愛したる処まゝあり。大意を掴み取るが如し。(テキストは俳句のみ掲載)

 書生、只今喘息の気配にて、嗄れ声を謝するのみ。

朗読インデックス

[俳句、明治二十五年(1892年)]
[俳句、明治二十六年(1893年)]
[俳句、明治二十七年(1894年)]
[俳句、明治二十八年(1895年)]
[俳句、明治二十九年(1896年)]

明治二十五年 (1892年)

[俳句批評 朗読1]

  石手川(いしてがわ)出合渡
若鮎の二手になりて上りけり

  伊予太山寺(いよたいさんじ)
蒟蒻(こんにゃく)につゝじの名あれ太山寺

  松山堀端(ほりばた)
門しめに出て聞て居る蛙かな

鱗散る雑魚場(ざこば)のあとや夏の月

開いても開いても散るけしの花

魂棚(たまだな)の飯に露おく夕(ゆうべ)かな

神に灯をあげて戻れば鹿の声

  範頼の墓に笠をさゝげて
鶺鴒(せきれい)よこの笠叩くことなかれ

宮島(みやじま)の神殿はしる小鹿かな

御格子に切髪かくる寒さかな

明治二十六年 (1893年)

[俳句批評 朗読2]

何といふ鳥かしらねど梅の枝

鶯(うぐいす)の淡路へわたる日和かな

祇園会(ぎおんえ)や錦の上の京の月

夕立にうたるゝ鯉のかしらかな

茨(ばら)さくや根岸の里の貸本屋

  湯田温泉
山の温泉(ゆ)や裸の上の天の川

  出羽
夕陽に馬洗ひけり秋の海

  行脚より帰りて
蕣(あさがお)に今朝は朝寝の亭主あり

路次口に油こぼすや初しぐれ

杉の雪一町奥に仁王門

馬の尻雪吹きつけてあはれなり

旅人の蜜柑くひ行枯野かな

一つ家(や)に鴨の毛むしる夕かな

縁(えん)に干す蒲団(ふとん)の上の落葉かな

少し変わっておる句

行燈の油なめけり嫁が君

行く春や商人船の立烏帽子(たちえぼし)

鶯の梅に下痢(げり)する余寒(よかん)かな

玉川や小鮎たばしる晒(さら)し布

橋落ちてうしろ淋しき柳かな

春老てたんぽゝの花咲けば散る

すゝしさを四文にまけて渡し守(わたしもり)

雨雲をさそふ嵐の幟(のぼり)かな

瘧(おこり)落て足ふみのばす蚊帳(かちょう)かな

蝸牛(かたつむり)の喧嘩見に出ん五月雨

我書いて紙魚(しみ)くふ程になりにけり

傘たゝむ玄関深き若葉かな

冬枯や巡査に吠ゆる里の犬

明治二十七年 (1894年)

[俳句批評 朗読3]

薄絹に鴛鴦(おしどり)縫(ぬ)ふや春の風

女連れて春の野ありき日は暮ぬ

梅を見て野を見て行きぬ草加迄(くさかまで)

翡翠(かわせみ)や水澄んで池の魚深し

  晏起(あんき)
天窓の若葉日のさすうがひかな

木槿(むくげ)咲て里の社(やしろ)の普請(ふしん)かな

鳥啼いて赤き木の実をこぼしけり

茸狩(きのこがり)山浅くいくちばかりなり

脛(はぎ)に立つ水田の晩稲(おくて)刈る日かな

いくさから便(たより)とゞきし炬燵(こたつ)かな

初霜や束ねよせたる菊の花

甲板(かんぱん)に霰(あられ)の音の暗さかな

古池の鴛鴦(おし)に雪降る夕(ゆうべ)かな

梟(ふくろう)をなぶるや寺の昼狐

御手(みて)の上に落葉たまりぬ立仏(たちぼとけ)

吹きたまる落葉や町の行き止まり

  三河島(みかわしま)
菜畑や小村をめぐる冬木立(ふゆこだち)

枯荻(かれおぎ)や日和定まる伊良古崎(いらござき)

[子規全集の俳句帳抄の「枯萩」の記述は間違いか、変更か?]

明治二十八年

[俳句批評 朗読4]

  呉港
大船や波あたゝかに鴎(かもめ)浮く

砂濱に足跡長き春日かな

  東京
紫の灯をともしけり春の宵

行く春を翠帳(すいちょう)の鸚鵡(おうむ)黙りけり

きれ凧(だこ)の広野の中に落ちにけり

  睡猫図(すいびょうず)
鼾(いびき)すなり涅槃(ねはん)の寺の裏門に

[俳句批評 朗読5]

一銭の釣鐘撞(つ)くや昼霞

  大連湾
大国の山皆低きかすみかな

宇治川やほつり/\と春の雨

橋蹈(ふ)めば魚(うお)沈みけり春の水

春の水出茶屋(でぢゃや)の前を流れけり

一桶の藍流しけり春の川

氷解けて古藻に動く小海老かな

腹中に吹矢(ふきや)立ちけり雀の子

夜越えして麓(ふもと)に近き蛙かな

ひら/\と蝶々黄なり水の上

大門(おおもん)や柳かぶつて灯をともす

観音で雨に逢ひけり花盛

蜘(くも)殺すあとの淋しき夜寒かな

嗽石(そうせき)に別る
行く我にとゞまる汝(なれ)に秋二つ

白頭(はくとう)の吟(ぎん)を書きけり捨団扇

燈籠(とうろう)をともして留守の小家かな

家族従者十人許(ばか)り墓参

棚経(たなぎょう)や小僧面白さうに読む

なまくさき漁村の月の踊(おどり)かな

玉川や夜毎の月に砧(きぬた)打つ

狐啼いて新酒の酔のさめにけり

君今来ん新酒の燗(かん)のわき上る

あら波や二日の月を捲(ま)いて去る

藍色の海の上なり須磨の月

  奈良
月上る大仏殿の足場かな

瓢亭(ひょうてい)、六軍に従ひて遼東(りょうとう・りゃおとん)の野に戦ふ事一年。命を、砲煙弾雨の間に全うして帰る。われはた神戸須磨に病みて、絶えなんとする玉の緒、危くもこゝに繋ぎとめ、つひに瓢亭に逢ふ事を得たり。相見て惘然(ぼうぜん・もうぜん)、言ひ出づべき言葉も知らず

秋風や生きてあひ見る汝(なれ)と我

山門を出て下りけり秋の山

鴫(しぎ)立つてあとにものなき入日かな

秋の蚊の人見て出るよ乱塔場(らんとうば)

童子(どうじ)呼べば答なし只(ただ)蚯蚓(みみず)鳴く

道ばたの木槿(むくげ)にたまるほこりかな

佛壇(ぶつだん)の柑子(こうじ)を落す鼠かな

  法隆寺の茶店に憩ひて
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

蕣(あさがお)や十日戻らぬ小商人(こあきんど?)

藁葺(わらぶき)の法華(ほっけ)の寺や鶏頭花(けいとうか)

菊の花天長節は過ぎにけり

うぶすなに幟(のぼり)立てたり稲の花

冬こもり煙のもるゝ壁の穴

  病中
しぐるゝや腰湯ぬるみて雁の声

凩(こがらし)や鐘引きすてし道の端

金殿のともし火細し夜の雪

汽車道の一段高き冬田かな

明治二十九年

[俳句批評 朗読6]

赤飯の湯気あたゝかに野の小店

永き日や人集めたる居合抜(いあいぬき)

寐よとすれば門叩くなり春の宵

欄間(らんま)には二十五菩薩(ぼさつ)春の風

塔に上れば南住吉春の海

上市(かみいち)は灯をともしけり夕霞

風呂の盖(ふた)取るやほつ/\春の雨

日光の向ふ上りに燕かな

崕(がけ)急に梅こと/”\く斜なり

連翹(れんぎょう)に一閑張(いっかんばり)の机かな

  三界無安猶如火宅
又けふも凉しき道へ誰(た)が柩(ひつぎ)

夏帽をかぶつて来たり探訪者(たんぽうしゃ)

夏帽や吹き飛ばされて濠(ほり)に落つ

夏帽も取りあへぬ辞宜(じぎ)の車上かな

夏帽子人帰省すべきでたちかな

かち渡る人流れんとす五月雨(さつきあめ)

[俳句批評 朗読7]

夏川や橋はあれど馬水を行く

夏川のあなたに友を訪ふ日かな

籠城(ろうじょう)の水の手きれぬ雲の峰

蟒(うわばみ)の住む沼涸(か)れて雲の峰

苔清水馬の口籠(くつこ)をはづしけり

三千の兵たてこもる若葉かな

  戦死者を弔(とむら)ふ
匹夫(ひっぷ)にして神と祭られ雲の峰

ひら/\と蛾の飛ぶ藪(やぶ)の小道かな

花桐(はなぎり)の琴屋を待てば下駄屋かな

かいま見ん茨(ばら)咲く宿の隠し妻

藻の花や水ゆるやかに手長鰕(てながえび)

藻の花に鷺(さぎ)彳(たたず)んで昼永し

夏葱(なつねぎ)に鶏(にわとり)裂くや山の宿

鳥鳴いて谷静かなり夏蕨(なつわらび)

行く秋の鐘つき料を取りに来る

亡き妻や燈籠の陰に裾(すそ)をつかむ

両國(りょうごく)の花火聞ゆる月夜かな

相撲取小き妻を持ちてけり

大水を踏みこたえたるかゝしかな

小博奕(こばくち)にまけて戻れば砧(きぬた)かな

  中山(なかやま)の蕎麦屋にて
新酒酌(く)むは中山寺の僧どもか

稲妻や森のすきまに水を見たり

この野分さらにやむべくもなかりけり

蟷螂(とうろう)のすぐに鎌振る卑怯かな

柿くふや道灌山(どうかんやま)の婆が茶屋

  中山寺にて
釣鐘の寄進(きしん)につくや葉鶏頭(はげいとう)

  平家を聴く
煎餅干す日影短し冬の町

2011/8/23

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