臨終 (中原中也)

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臨終

秋空は鈍色(にびいろ)にして
黒馬の瞳のひかり
  水涸(か)れて落つる百合花
  あゝ こころうつろなるかな

神もなくしるべもなくて
窓近く婦(をみな)の逝きぬ
  白き空盲(めし)ひてありて
  白き風冷たくありぬ

窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
  朝の日は澪(こぼ)れてありぬ
  水の音したたりてゐぬ

町々はさやぎてありぬ
子等の声もつれてありぬ
  しかはあれ この魂はいかにとなるか?
  うすらぎて 空となるか?

2009/1/14

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