冬の黒い夜をこめて
どしやぶりの雨が降つてゐた。
――夕明下(ゆふあかりか)に投げいだされた、萎(しを)れ大根(だいこ)の陰惨さ、
あれはまだしも結構だつた――
今や黒い冬の夜をこめ
どしやぶりの雨が降つてゐる。
亡き乙女達の声さへがして
ae ao, ae ao, eo, aeo eo!
その雨の中を漂ひながら
いつだか消えてなくなつた、あの乳白の嚢(へうなう)たち……
今や黒い冬の夜をこめ
どしやぶりの雨が降つてゐて、
わが母上の帯締めも
雨水(うすい)に流れ、潰れてしまひ、
人の情けのかずかずも
竟(つひ)に蜜柑(みかん)の色のみだつた? ……
2009/1/25