雨を含んだ暗い空の中に
大きいポプラは聳[そそ]り立ち、
その天頂(てつぺん)は殆んど空に消え入つてゐた。
六月の宵、風暖く、
公園の中に人気はなかつた。
私はその日、なほ少年であつた。
ポプラは暗い空に聳り立ち、
その黒々と見える葉は風にハタハタと鳴つてゐた。
仰ぐにつけても、私の胸に、希望は鳴つた。
今宵も私は故郷(ふるさと)の、その樹の下に立つてゐる。
其[そ]の後十年、その樹にも私にも、
お話する程の変りはない。
けれど、あゝ、何か、何か……変つたと思つてゐる。
(一九三六・一一・一七)
2009/04/04
2011/02/05再朗読