夜半の嵐 (中原中也)

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夜半の嵐

松吹く風よ、寒い夜(よ)の
われや憂き世にながらへて
あどけなき、吾子(あこ)をしみればせぐくまる
おもひをするよ、今日このごろ。

人のなさけの冷たくて、
真(しん)はまことに響きなく……
松吹く風よ、寒い夜(よ)の
汝(なれ)より悲しきものはなし。

酔覚めの、寝覚めかなしくまづきこゆ
汝(なれ)より悲しきものはなし。
口渇くとて起出でて
水をのみ、渇きとまるとみるほどに
吹き寄する風よ、寒い夜の

喀痰[かくたん]すれば唇(くち)寒く
また床(とこ)に入り耳にきく
夜半の嵐の、かなしさよ……
それ、死の期(とき)もかからまし

言葉の意味

[せぐくまる]
・「せくぐまる」つまり背をまるめてこごむこと。

[喀痰(かくたん)]
・痰を吐くこと。吐かれた痰のこと。

2009/04/03
2011/2/4再録音

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