桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ鳴いてゐた
夜更の駅には駅長が
綺麗な砂利を敷き詰めた
プラットホームに只[ただ]独り
ランプを持つて立つてゐた
桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ泣いてゐた
焼蛤貝[やきはまぐり]の桑名とは
此処[ここ]のことかと思つたから
駅長さんに訊[たず]ねたら
さうだと云つて笑つてた
桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ鳴いてゐた
大雨(おほあめ)の、霽(あが)つたばかりのその夜(よる)は
風もなければ暗かつた
(一九三五・八・一二)
「此の夜、上京の途なりしが、京都大阪間の不通のため、臨時関西線を運転す」
2009/04/03
2011/1/28再録音