(おまへが花のやうに)

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(おまへが花のやうに)

おまへが花のやうに
淡鼠[うすねず]の絹の靴下穿[は]いた花のやうに
松竝木[まつなみき]の開け放たれた道をとほつて
日曜の朝陽を受けて、歩んで来るのが、

僕にみえだすと僕は大変、
狂気のやうになるのだつた
それから僕等磧[かわら]に坐つて
話をするのであつたつけが

思へば僕は一度だつて
素直な態度をしたことはなかつた
何時でもおまへを小突(こづ)いてみたり
いたづらばつかりするのだつたが

今でもあの時僕らが坐つた
磧[かわら]の石は、あのまゝだらうか
草も今でも生えてゐようか
誰か、それを知つてるものぞ!

おまへはその後どこに行つたか
おまへは今頃どうしてゐるか
僕は何にも知りはしないぞ
そんなことつて、あるでせうかだ

そんなことつてあつてもなくても
おまへは今では赤の他人
何処で誰に笑つてゐるやら
今も香水つけてゐるやら

     (一九三五・一・一一)

言葉の意味

[淡鼠(うすねず)]
・薄いねずみ色のこと。

2009/04/29
2011/1/25再朗読

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