僕には僕の狂気がある
僕の狂気は蒼ざめて硬くなる
かの馬の静脈などを思はせる
僕にも僕の狂気がある
それは張子(はりこ)のやうに硬いがまた
張子のやうに破けはしない
それは不死身の弾力に充ち
それはひよつとしたなら乾蚫(ほしあはび)であるかもれない
それを小刀で削つて薄つぺらにして
さて口に入れたつて唾液に反撥[はんぱつ]するかも知れない
唾液には混(まざ)らぬものを
恰[あた]かも唾液に混ざるやうな恰好[かっこう]をして
ぐつと嚥[の]み込まなければならないのかも知れない
ぐつと嚥み込んで、扨[さて]それがどんな不協和音を奏でるかは、僕が知る
(一九三五・一・九)
2011/1/23