野卑時代 (中原中也)

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野卑[やひ]時代

星は綺麗と、誰でも云ふが、
それは大概、ウソでせう
星を見る時、人はガツカリ
自分の卑少[ひしょう]を、思ひ出すのだ

星を見る時、愉快な人は
今時減多に、ゐるものでなく
星を見る時、愉快な人は
今時、孤独であるかもしれぬ

それよ、混迷、卑怯に野卑[やひ]に
人々多忙のせゐにてあれば
文明開化と人云ふけれど
野蛮開発と僕は呼びます

勿論[もちろん]、これも一つの過程
何が出てくるかはしれないが
星を見る時、しかめつらして
僕も此の頃、生きてるのです

    (一九三四・一一・二九)

言葉の意味

[野卑(やひ)]
・地位、身分の低いこと。
・田舎びている。下卑ていること。

[卑小(ひしょう)]
・ちっぽけなこと。取るに足らないこと。

2009/03/29
2011/1/20再録音

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