修羅街挽歌 其の二 (中原中也)

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修羅街挽歌 其の二

Ⅰ 友に与うる書

暁は、紫の色、
明け初[そ]めて
わが友等みな、
我を去るや……
否よ否、
暁は、紫の色に、
明け初めてわが友等みな、
一堂に、会するべしな。
弱き身の、
強がりや怯[おび]え、おぞましし
弱き身の、弱き心の
強がりは、猶[なお]おぞましけれど
恕[ゆる]せかし 弱き身の
さるにても、心なよらか
弱き身の、心なよらか
折るることなし。

Ⅱ ゴムマリの歌

ゴムマリか、なさけない
ゴムマリか、なさけない
ゴムマリは、キャラメル食べて
ゴムマリは、ギツタギダギダ

ゴムマリは、ころべどころべど
ゴムマリはゴムのマリなり
ゴムマリを待つは不運か
ゴムマリは、涙流すか

ゴムマリは、ころんでいつて、
ゴムマリは、天寿に至る
ゴムマリは、天寿に至り
ゴムマリは天寿のマリよ

強がつた心といふものが、
それがゴムマリみたいなものだといふことは分かる
ゴムマリといふものは
幼稚園ではある

ゴムマリといふものが、
幼稚園であるとはいへ
幼稚園の中にも亦[また]
色んな童児があらう

金色の、虹の話や
蒼窮[そうきゅう]を歌ふ童児、
金色の虹の話や、
蒼窮を、語る童児、

又、鼻ただれ、眼はトラホーム、
涙する、童児もあらう

いづれみな、人の姿ぞ
いづれみな、人の心の、折々の姿であるぞ

僕が、妥協的だと思つては不可[いけ]ない
僕は、妥協する、わけではない
僕には、たくらみがないばかりだ
僕の心持は、どう変りやうもありはしない

僕の心持が、ときどきとばつちることはあつたが
それは僕の友が、少々つれなかつたからでもあつた。

もちろん僕が、頑[かたく]なであつたには相違ないが、
それにしても、君等、少々冷淡であつた。

風の中から僕が抜け出て来た時
一寸[ちょっと]ばかり、唇(くち)が乾いてゐたとて
一寸ばかり、それをみてさへくれれば、
僕も猶[なお]和[なご]やかであつたらう

でもまあいい、もうすんだこと
これからは 僕も亦猶[またなお]
ヒステリックになるまいゆゑに
君等 また はやぎめで顔見合わせて嬉しがらずに呉[く]れ。

2009/05/01

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