青木三造 (中原中也)

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青木三造

序歌その一

こころまこともあらざりき
不実といふにもあらざりき
ゆらりゆらりとゆらゆれる
海のふかみの海草(うみくさ)の
おぼれおぼれて、溺れたる
ことをもしらでゆらゆれて

ゆふべとなれば夕凪[ゆうなぎ]の
かすかに青き空慕[した]ひ
ゆらりゆらりとゆれてある
海の真底の小暗きに
しほざゐあはくとほにきき
おぼれおぼれてありといへ

前後(ぜんご)もあらぬたゆたひは
それや哀しいうみ草の
なさけのなきにつゆあらじ
やさしさあふれゆらゆれて
あをにみどりに変化(へんげ)すは
海の真底の人知らぬ
涙をのみてあるとしれ

その二

  冷たいコップを燃ゆる手に持ち
  夏のゆふべはビールを飲まう
  どうせ浮世はサイアウが馬
   チヤツチヤつぎませコップにビール

  明けても暮れても酒のことばかり
  これぢやどうにもならねやうなもんだが
  すまねとおもふ人様もあるが
   チヤツチヤつぎませコップにビール

  飲んだ、飲んだ飲んだ、とことんまで飲んだ
  飲んで泡吹けあ夜空も白い
  白い夜空とは、またなんと愉快ぢやないか
   チヤツチヤつぎませコップにビール

2009/03/29

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