アセチリンをともして、
低い台の上に商品を竝[なら]べてゐた、
僕は昔の夜店を憶[おも]ふ。
万年草[まんねんぐさ]を売りに出てゐた、
植木屋の爺々[じじい]を僕は憶[おも]ふ。
あの頃僕は快活であつた、
僕は生きることを喜んでゐた。
今、夜店はすべて電気を用ひ、
台は一般に高くされた。
僕は呆然[ぼうぜん]と、つまらなく歩いてゆく。
部屋(うち)にゐるよりましだと思ひながら。
僕にはなんだつて、つまらなくつて仕方がない。
それなのに今晩も、かうして歩いてゐる。
電車にも、人通りにも、僕は関係がない。
2009/03/28