ナイヤガラの上には (中原中也)

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[題なし]

ナイヤガラの上には、月が出て、
雲も だいぶん集つてゐた。
波頭(はとう)に月は千々に砕けて、
どこかの茂みでは、ギタアを弾(かな)でてゐた。

僕は、発電所の中に飛び込んでいつて、
番人に、わけの分らぬことを訊ね出した。
番人は僕の様子をみて驚いて、
お静かに、お静かに、といつた。

ナイアガラ《まま》の上には、月が出て、
僕は中世の恋愛を夢みてゐた。
僕は発動機船に乗つて、
奈落の果まで行くことを願つてゐた。

糸が切れた、となさけない声。
それは僕の釣友達であつた。
わたしのをお使ひさんせー、遠慮いりいせん、
それは船頭の息子だつた。

滝の音は、何時まで響き、
月の光は、砕けてゐた。

2009/03/28

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