僕の血はもう、孤独をばかり望んでゐた。
それなのに僕は、屡々[しばしば]人と対坐してゐた。
僕の血は為[な]す所を知らなかつた。
気のよさが、独りで勝手に話をしてゐた。
後では何時でも後悔された。
それなのに孤独に浸ることは、亦[また]怖いのであつた。
それなのに孤独を棄[す]てることは、亦出来ないのであつた。
かくて生きることは、それを考へみる限りに於て苦痛であつた。
野原は僕に、遊べと云つた!
遊ばうと、僕は思つた。――しかしさう思ふことは僕にとつて、
既に余りに社会を離れることを意味してゐるのであつた。
かくて僕は野原にゐることもやめるのであつたが、
又、人の所にもゐなかつた……僕は書斎にゐた。
そしてくされる限りにくさつてゐた、そしてそれをどうすることも出来なかつた。
―二・一九三五―
2010/4/12