夏日静閑 (中原中也)

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夏日静閑

暑い日が毎日つづいた。
隣りのお嫁入前のお嬢さんの、
ピアノは毎日聞こえてゐた。
友達はみんな避暑地に出掛け、
僕だけが町に残つてゐた。
撒水車[さんすいしゃ]が陽に輝いて通るほか、
日中は人通りさへ殆[ほと]んど絶えた。
たまに通る自動車の中には
用務ありげな白服の紳士が乗つてゐた。
みんな僕とは関係がない。
偶々[たまたま]買物に這入つた店でも
怪訝[けげん]な顔をされるのだつた。
こんな暑さに、おまへはまた
何条[なんじょう]買ひに来たものだ?
店々の暖簾[のれん]やビラが、
あるとしもない風に揺れ、
写真屋のショウヰンドーには
いつもながらの女の写真(かほ)。


一九三七、八、五

2009/03/24

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