夏 (中原中也)

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僕は卓子〈テーブル〉の上に、
ペンとインキと原稿紙のほかなんにも載せないで、
毎日々々、いつまでもジツとしてゐた。

いや、そのほかにマッチと煙草と、
吸取紙くらゐは載つかつてゐた。
いや、時とするとビールを持つて来て、
飲んでゐることもあつた。

戸外〈そと〉では蝉がミンミン鳴いた。
風は岩にあたつて、ひんやりしたのがよく吹込んだ。
思ひなく、日なく月なく時は過ぎ、

とある朝、僕は死んでゐた。
卓子〈テーブル〉に載つかつてゐたわづかの品は、
やがて女中によつて瞬く間に片附けられた。
――さつぱりとした。さつぱりとした。

2009/03/24

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