道修山夜曲 (中原中也)

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道修山夜曲

星の降るよな夜(よる)でした
松の林のその中に、
僕は蹲[しやが]んでをりました。

星の明りに照らされて
折しも通るあの汽車は、
今夜何処[どこ]までゆくのやら。

松には今夜風もなく
土はジツトリ湿つてる。
遠く近くの笹の葉も
しづもりかへつてゐるばかり。

星の降るよな夜でした、
松の林のその中に
僕は蹲んでをりました。

        ――一九三七、二、二――

言葉の意味

[道修山(どうしゅうざん)]
中也が、入院していた中村古峡療養所あたりの丘の名称。

[プチ解説]
・一節目の、「星→夜→松林→僕→しゃがんでいる(地)」への収斂と下界への視点が、いったん二節目で汽車へと視線を再び開放し、同時に音声化(汽車の響き)させる。三節目は、一節目の収斂を踏まえて、同時に二節目の音声化を踏まえて、音声としては「風もなく、笹の葉もしづもりかえつて」へと静けさの強調が、二節目の汽車の響きを心情に焼き付け、フォーカスとしては、しゃがんでいる状態の具体描写が、短い言葉の中に見事な臨場感を与える。視覚的にも「松→土→遠く近く」と動的な傾向を高め、さらに聴覚・視覚とともに「風もなくジツトリ湿つてる」の肌感覚を加えて、詩のピークを形成。そうして二節目に始まった主観性の領域を形成しつつ、再び客観へと帰す四節目の開放が、一節目の描写を、まるで違ったものへと深めつつ詩を終える。不要な言葉ひとつなく、足らない言葉ひとつなく、すべてが必然であり、唱えられて始めて価値を持つべき言葉のリズム感に支えられている。

[発表前のもの]
・療養所の草稿では、句読点だけが違っている。

2010/5/9

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