漂々と口笛吹いて (中原中也)

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漂々と口笛吹いて

漂々[ひょうひょう]と 口笛吹いて 地平の辺(べ)
  歩き廻るは……
一枝の ポプラを肩に ゆさゆさと
葉を翻(ひるが)へし 歩き廻るは

褐色(かちいろ)の 海賊帽子 ひよろひよろの
ズボンを穿(は)いて 地平の辺
  森のこちらを すれすれに
目立たぬやうに 歩いてゐるのは

あれは なんだ? あれは なんだ?
あれは 単なる呑気者か?
それともあれは 横著者(わうちやくもの)か?
あれは なんだ? あれは なんだ??p

  地平のあたりを口笛吹いて
  ああして呑気に歩いてゆくのは
  ポプラを肩に葉を翻へし
  ああして呑気に歩いてゆくのは
  弱げにみえて横著さうで
  さりとて別に悪意もないのは

あれはサ 秋サ たゞなんとなく
おまへの 意欲を 嗤(わら)ひに 来たのサ
あんまり あんまり たゞなんとなく
嗤ひに 来たのサ おまへの 意欲を

  嗤ふことさへよしてもいいと
  やがてもあいつが思ふ頃には
  嗤ふことさへよしてしまへと
  やがてもあいつがひきとるときには

冬が来るのサ 冬が 冬が
野分(のわき)の 色の 冬が 来るのサ

言葉の意味

[漂々(ひょうひょう)]
・普通「飄々」と記す。風の吹く様子。またふらふらと定まらない様子。さらに、一般社会の範疇から自由な様子などを表現する。

2010/05/1

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