夏の明方年長妓が歌つた (中原中也)

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夏の明方年長妓(あけがたとしま)が歌つた

――小竹[こたけ]の女主人(ばばあ)に捧ぐ

うたひ歩いた揚句の果は
空が白むだ、夏の暁(あけ)だよ
随分馬鹿にしてるわねえ
一切合切[いっさいがっさい]キリガミ細工
銹[さ]び付いたやうなところをみると
随分鉄分には富んでるとみえる
林にしたつて森にしたつて
みんな怖[お]づ怖づしがみついてる
夜露が下りてゐるとこなんぞ
だつてま、しほらしいぢやあないの
棄てられた紙や板切れだつて
あんなに神妙、地面にへたばり
植えられたばかりの苗だつて
ずいぶんつましく風にゆらぐ
まるでこつちを見向きもしないで
あんまりいぢらしい小娘みたい
あれだつて都に連れて帰つて
みがきをかければなんとかならうに
左程々々(さうさう)こつちもかまつちやられない
――随分馬鹿にしてるわねえ
うたひ歩いた揚句の果は
空が白むで、夏の暁(あけ)だと
まるでキリガミ細工ぢやないか
昼間(ひるま)は毎日あんなに暑いに
まるでぺちやんこぢやあないか

言葉の意味

[一切合切(いっさいがっさい)]
・何もかも。すべて。

2009/04/27

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