通りに雨は降りしきり、
家々の腰板[こしいた]古い。
もろもろの愚弄の眼(まなこ)は淑(しと)やかとなり、
わたくしは、花瓣(くわべん)の夢をみながら目を覚ます。
*
鳶色(とびいろ)の古刀の鞘(さや)よ、
舌あまりの幼な友達、
おまへの額は四角張つてた。
わたしはおまへを思ひ出す。
*
鑢(やすり)の音よ、だみ声よ、
老い疲れたる胃袋よ、
雨の中にはとほく聞け、
やさしいやさしい唇を。
*
煉瓦の色の憔心(せうしん)の
見え匿(かく)れする雨の空。
賢(さかし)い少女の黒髪と、
慈父の首(かうべ)と懐かしい……
2009/02/15