あばずれ女の亭主が歌つた (中原中也)

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あばずれ女の亭主が歌つた

おまへはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
おれもおまへを愛してる。前世から
さだまつていることのやう。

そして二人の魂は、不識(しらず)に温和に愛し合ふ
もう長年の習慣だ。

それなのにまた二人には、
ひどく浮気な心があつて、

いちばん自然な愛の気持を、
時にうるさく思ふのだ。

佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。

そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあふ。

そしてあとでは得態(えたい)の知れない
悔の気持に浸るのだ。

あゝ、二人には浮気があつて、
それが真実(ほんと)を見えなくしちまふ。

佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。

2009/03/18

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