春宵感懐 (中原中也)

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春宵感懐[しゅんしょうたんかい]

雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵(よひ)。
 なまあつたかい、風が吹く。

なんだか、深い、溜息が、
 なんだかはるかな、幻想が、
湧くけど、それは、掴(つか)めない。
 誰にも、それは、語れない。

誰にも、それは、語れない
 ことだけれども、それこそが、
いのちだらうぢやないですか、
 けれども、それは、示(あ)かせない……

かくて、人間、ひとりびとり、
 こころで感じて、顔見合せれば
につこり笑ふといふほどの
 ことして、一生、過ぎるんですねえ

雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
 なまあつたかい、風が吹く。

2009/03/12

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