冷たい夜 (中原中也)

(朗読ファイル) [Topへ]

冷たい夜

冬の夜に
私の心が悲しんでゐる
悲しんでゐる、わけもなく……
心は錆びて、紫色をしてゐる。

丈夫な扉の向ふに、
古い日は放心してゐる。
丘の上では
棉[わた]の実が罅裂(はじ)ける。

此処(ここ)では薪が燻(くすぶ)つてゐる、
その煙は、自分自らを
知つてでもゐるやうにのぼる。

誘はれるでもなく
覓(もと)めるでもなく、
私の心が燻る……

2009/02/21

[上層へ] [Topへ]