中原中也原作、時乃志憐編、短歌集

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中原中也原作、時乃志憐編、短歌集

山羊の歌より

今宵こそ、遠(をち)にちらばる星々よ!
おまへの※手(そうしゆ)を月は待つてる
(「月」より)

サーカスと ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
落下傘奴(らくかがさめ)のノスタルヂアよ
(「サーカス」より)

春の夜や、埋みし犬の何処(いづく)にか
  蕃紅花色(さふらんいろ)に湧きいづるかも
(「春の夜」より)

うつくしき さまざまの夢 土手づたひ
  きえてゆくかな たひらかの空
(「朝の歌」より)

町々はさやぎてありぬ子等の声
もつれてありぬ落つる百合花
(「臨終」より)

月は空にメダルのように男どち
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。
(「都会の夏の夜」より)

「在りし日の歌」より

出掛けませう。ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて僕らふたりで
(「湖上」より)

冬の夜は影と煙草と僕と犬
えもいはれないカクテールです
(「冬の夜」より)

ヌツクと出た、ホラホラ、これが僕の骨――
見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
(「骨」より)

菜の花の畑で眠って居るものは……
赤ん坊ではないのでせうか?
(「春と赤ン坊」より)

幾(いく)とせを思へば遠く来たもんだ
十二汽笛の湯気やいずこへ
(「頑是ない歌」より)

ポカポカと音とてなかつた工場の
煉瓦干されて赫々(あかあか)してゐた
(「思ひ出」より)

その他の詩より

病院に、今宵は、雨が、降るぞえ、な。
たんたら、らららら、雨が、降るぞえ。
(「雨が降るぞえ」より)

2011/1/6~

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