源氏物語、あらすじその2

[Topへ]

女三宮と柏木

 体調悪化につけても出家を望む朱雀院は、まだ若き自分の末娘、女三宮(おんなさんのみや)の将来を案じ、やはり源氏に嫁がせるべきではないかと決意する。さっそく女三宮の裳着(もぎ)が行われ、朱雀院は出家し、源氏は娘ほどの年齢の(これが彼にとっての障害になるとは思えないのだが)女三宮に当惑して、紫の上に打ち明ければ、彼女も内心大いに心震えるものがあった。いずれにせよ院からの申し出である。お断りすることは難しい。

 明けて正月、源氏の四十歳記念をかねて玉鬘が長寿を祝う若菜(わかな)を献呈する。若菜とは薬草として万病を除くとされる七種類の野草のことで、この宮廷行事から春の七草が生まれたという。さっそく女三宮が源氏のもとへ送り込まれた。自分より身分の高い妻の登場に、正妻の立場を奪われた形の紫の上。夫を新妻のもとへ送り出しながらも、こころの中には暴風雨が荒れ狂っていた。

 その翌年、朱雀帝の息子である東宮(とうぐう・皇太子的立場)に嫁いでいた明石の姫君(今では明石女御)が、念願の息子を出産する。東宮の第1皇子であり、源氏の権勢もあるので、東宮が帝となられたあかつきには、次の東宮になる可能性が高い。もちろん源氏にとってもさらに盤石の地位を築くこととなったが、自分の娘が国母となるという夢のお告げが叶ったと信じた父親の明石入道は、これをもって俗世を離れ山にこもることとした。

 そんなある日、例の内大臣の息子であり、女三宮に求婚したこともあった柏木(かしわぎ)が、猫の悪戯によって隠しが払われるという珍事で、女三宮をじっくりと眺めてしまったのである。当時の貴族社会においてはこれは非常に失敬なことであるが、アクシデントであるから仕方がない。たちまち柏木の胸のうちに、さらなる恋愛の炎が燃え上がる。ああ、堪えきれないものこそ男心なるものか。[34.若菜上(わかなのじょう)]


 燃えがらせた女はすでに源氏の妻である。どうにもならないので、燃え上がらせた原因の猫を貰ってきて、憂さ晴らしに猫鍋に・・・ではなく、ただただ溜息など付きまくっていた。

 それから4年が過ぎた。冷泉帝はもはや退位し、朱雀帝の息子が今上帝(きんじょうてい)として即位。(正しくは今上帝とは今の帝の意味を便宜上呼んだだけであるから、今上帝と呼ばれていた訳ではない。ただ帝とのみ呼ばれ得る。)これに合わせて、今上帝の妻、明石女御が生んだ息子が目出度く東宮となった。こうして彼女は明石中宮(ちゅうぐう)と呼ばれるようになる。つまり皇后待遇である。

 女三宮が屋敷に来て以来、心細さに震える紫の上。彼女は出家を望むが、源氏が頷(うなず)くはずもない。やがて紫の上は一時危篤の大病となり、源氏は彼女を二条院に移して必死に介護をする。久しぶりに登場の機会を得た、亡き六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)が、物の怪となってぷかぷか浮かんだりしていたが、呪い到らずに一命を取り留めた。

 その間に柏木がまんまと成就してしまった。何をって?そりゃ女三宮に決まっているさ。二人は結ばれて、女三宮は赤ちゃんが出来ちゃったのである。実は柏木は、すでに女三宮の姉にあたる、つまりやはり朱雀院の娘の一人、落葉の宮(おちばのみや)と結婚していた。その上での不始末である。ことの次第を知った源氏は、かつての自分の行為を思い、因果の巡り来る定めを実感しつつ、宴の席で柏木に「笑っていられるのも今のうちだぜ」といって、無理矢理酒を飲ませまくった。秘密の露見したことを悟った柏木は、ガクブル震えて、病になってしまったのである。[35.若菜下(わかなのげ)]


 お優しい現代っ子だった?柏木は、病が高じて寝たきり。その間に、女三宮は柏木の子を産み落とした。これが薫(かおる)と呼ばれる男の子。源氏物語後半の主人公となる人物であり、冴えきらないところがお父様の性質を見事に受け継いでいるのだが、それはまだ先の話しだ。女三宮も床に伏して、久しぶりに活躍しまくりな六条御息所の怨霊に祟られたりしている。とうとう見舞いに来た朱雀院にお願いして、さくっと尼になってしまった。どうも最近の若者には図太さが足りぬ。源氏の君がそう思ったかどうだか知らないが、この報いによって昔の自分の行為に対する罪状が軽くなるかしら、なんて不埒なことを考えたりしている。夕霧の見舞いを受けた柏木は、ほどなくさくっとお亡くなりて、結局残された薫の面倒を、我が子として源氏がみることは、火を見るよりも明らかである。薫は何も知らずに無頓着にはい回っているではないか。[36.柏木(かしわぎ)]

夕霧と落葉の宮

 早くも柏木の一周忌。薫は筍(たけのこ)とたわむれまくっている。やっぱりはい回っている。まだ一歳だからはい回るのは当然だ。夕霧は柏木の館に出向いて、柏木の母と、それから柏木の妻である女二宮(落葉の宮・おちばのみや)を慰める。実はせっかく雲居の雁と結ばれたのに、二人の間に子供が出来た今日この頃、浮気心が沸き起こって、密かに落葉の宮に心引かれていたからである。

 柏木の母が、柏木の愛用したという横笛をくれた。これを持ち帰って眠りに付いたら、柏木の亡霊が出て来てしまった。「その笛はあなたではない。私の子孫に伝えたいのだ。」と夢に嘆くので、それは誰かと尋ねようとしたら、子供の声で目が覚めた。雲居の雁が、浮気心を察知してそれとなく皮肉を言ったりする。夕霧は父親の源氏のもとへ出かけた。笛の話しをすると、源氏は理由も説明せずに、「そりゃ私の持つべき笛だな」と言って、その笛をさくっと預かってしまう。夕霧は親父のすることだから、まあそのままにしておいた。[37.横笛(よこぶえ)]


 女三宮は今では出家して入道の宮(にゅうどうのみや)と呼ばれる。彼女の行う仏事を源氏が全面的にサポートする。八月十五夜の夜、入道の宮と源氏のもとに集まった夕霧や蛍兵部卿などと共に、鈴虫を聞く宴が開催されたりしている。

 (物の怪でお馴染みの)六条御息所の娘で、中宮となっていた源氏の養子明石中宮。人呼ぶところの秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)。源氏が彼女のもとを訪れると、母が死んでなおかつ怨霊となり、ぷかぷか漂って(かどうかは知らないが)成仏しないので出家したいのですと言いだす。源氏は「まあまあ、あれは彼女の趣味みたいなものだから」とはまさか言ったりしないが、とにかくこれを慰める。その代わり、六条御息所のために法事を行うことにした。[38.鈴虫(すずむし)]


 柏木の妻であった落葉の宮は、母親の病気で比叡山の方へ移った。夕霧はこれを知ると、のこのこ見舞いに出かける。想い堪えきれなくなって、夜通し落葉の宮に想いを打ち明けまくっていたら、まだ成就していないにもかかわらず、母親の御息所(みやすんどころ)(この名称も中宮・女御・更衣などを除いた天皇仕えの宮女を指す言葉なので、いろいろな人が同じように呼ばれうる。)が「朝まで二人っきり」と譫言のように繰り返し始めた。決心して夕霧の想いを確かめようと手紙を認(したた)める。ところが、夕霧には届かず、夕霧の奥さんである雲居の雁がこれを握りつぶしてしまった。御息所は心配と病のため御亡くなってしまう。

 衝撃のあまり出家しようとした落葉の宮を、必死に邸へ帰させた夕霧。これを知った雲居の雁が激怒した。しかし夫婦げんかも何のその、心を開かない落葉の宮に対して、夕霧はついに強硬手段に打ってでた。なんと、やることを先にすませてしまったのである。落葉の宮も実は、夕霧を嫌っているわけではなかった。一方の正妻の雲居の雁は、怒りに任せて実家に帰ってしまう。実家とはかつて頭中将と呼ばれた男の館である。彼は今では太政大臣(だじょうだいじん)を退いて、致仕の大臣(ちじのおとど)と呼ばれ、隠退生活に入っていた。[39.夕霧(ゆうぎり)]

源氏の死

 二条院で紫の上が主宰する儀式が行われるが、体調の優れないままの紫の上は自らの死を予感する。そして8月14日、ついに彼女は亡くなってしまう。源氏はお先真っ暗状態に陥ってしまった。[40.御法(みのり)]


 悲嘆にくれつつ心惑う源氏は出家を望み、これまでのプレイボーイ記念の手紙を焼き払う。時に人生52歳であった。出家を決意した彼は、おのれの人生を振り返るのであった。[41.幻(まぼろし)]


 そして[雲隠(くもがくれ)]という本文のない帖名が次ぎに控える。これをもって源氏の死が暗示されるのだとも言われているし、初めは存在していた本文が後に無くなったのだともされている。ただ他の帖から、出家後、源氏が嵯峨に隠棲し、数年後に亡くなったことが分かるだけである。プレイボーイが罪の業火にさいなまれ、断罪せられるドン・ジョバンニのようなストーリーを願った皆様、ご足労さまでございました。(整理番号を若菜の上下をひとつに数え、これに41番を振る分類もある。)

2008/12/13

[上層へ] [Topへ]