小倉百人一首の朗読 八

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七十一

夕(ゆふ)されば門田(かどた)の稲葉(いなば)おとづれて
蘆(あし)のまろやに秋風ぞ吹く
    大納言経信(だいなごんつねのぶ)

・夕方が来れば、門前の田んぼの稲葉に音立てながらに風は訪れて、蘆で葺(ふ)いた粗末な家にまで、秋風は吹いてくることだなあ。

  夕暮れの門田の稲葉を訪ねては
  蘆のぼろ屋に秋風は吹く

七十二

音(おと)に聞く高師(たかし)の浜のあだ波は
かけじや袖のぬれもこそすれ
    祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)

・噂に聞く、高師の浜(大阪府高石市あたりの浜)にいたずらに立つという波。掛けないようにしましょう、袖も濡れてしまうことになるでしょうから。それと同じように、噂に聞く、あなたの浮気心の軽薄な波は、心に掛けないようにしましょう。涙に袖が濡れてしまうことでしょうから。

・二つの意味を内包する掛詞を効果的に使用した和歌。「あだ波は」には浮気ものの比喩を織り込んだだけだが、「かけじや」は「波はかけじや」と「(思ひは)かけじや」の異なる二つの意味を織り込んだ掛詞になっている。他にも「高師」が「音に聞く高し」と「高師の浜」の二つの意味の掛詞になっている。

  名にひびく高師の浜のあだ波は
  掛けるな袖も濡れてしまうよ

七十三

高砂(たかさご)の尾上(をのへ)の桜咲きにけり
外山(とやま)の霞(かすみ)立たずもあらなむ
    権中納言匡房(ごんちゅうなごんまさふさ)

・高砂(高い山)の尾上(峰の上)の桜もさいたのだなあ。外山(深山に対して人里に近い山)の霞よ、花が見えなくなるから、どうか立たないでおくれよ。

  高砂の峰にも桜は咲きました
  里山かすみも立たなければと

七十四

憂かりける人を初瀬(はつせ)の山おろしよ
はげしかれとは祈らぬものを
    源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)

・つれなかった人を、初瀬(奈良県桜井市初瀬町)の山おろしの風よ、お前のように辛くあたるようにとは、わたしは決して祈らなかったのに。(なんで、それなのに、辛くあたるのさ)

  つれなさの人を初瀬の山おろしよ
  激しくあれとは祈らないものを

七十五

契(ちぎ)りおきしさせもが露を命にて
あはれ今年の秋もいぬめり
    藤原基俊(ふじわらのもととし)

・(詞書きの内容として、詠い手が講師の座を懇願するとき、「しめぢが原のさせも草」の和歌を付けて相手から快諾して貰えたので、安心していると、その選にもれたのを恨んで送った和歌として)
約束しておいた、させも(させも草、つまりヨモギ)の歌にたくされた、その露を命にとしていたのに、ああ、今年の秋も虚しく過ぎていくことであります

  約束のさせもの歌を頼みつつ
  あわれ今年の秋も過ぎゆく

七十六

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの
雲居(くもゐ)にまがふ沖つ白波
    法性寺入道前関白太政大臣
(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)

・大海原(おおうなばら)に船を漕ぎ出して見渡せば、ひさかたの(雲居に掛かる枕詞)雲と見間違えるほどに、沖に立っている白波であることよ。

  海原に漕ぎ出して見ればひさかたの
  雲にも間違う沖の白波

七十七

瀬を早み岩にせかるる滝川(たきがは)の
われても末(すゑ)に逢はむとぞ思ふ
    崇徳院(すとくいん)

・川瀬の流れも速いので、岩にせき止められた急流の、割れて別れても末には一つとなるように、あなたとの別れも、末にはまた逢いたいと思っているのです。

・上の句が、「われても」に掛かって、序詞となる。また「われても」には序詞を受けて滝川の「割れても」の意味と、下の句の趣旨であるふたりのあいだは今「割れても」の二つの意味を掛ける。(「割れても」の持つ意味が同じであるから、これは狭義の掛詞ではない)

  瀬も早く岩にかかれば滝川の
  割れても末に逢おうと思えよ

七十八

淡路島(あはぢしま)かよふ千鳥の鳴く声に
幾夜(いくよ)寝覚めぬ須磨(すま)の関守(せきもり)
    源兼昌(みなもとのかねまさ)

・淡路島から海を通ってくる千鳥の鳴く声に、(かなしさを重ねるみたいにして)幾夜目を覚ましてしまったことであろう、須磨の関守は。

・「源氏物語」において、源氏の君がやんちゃをしすぎて須磨に流された侘びしさを踏まえて呼んだもので、その侘びしさを当地の関守に委ねたのだとされる。

  淡路島かよう千鳥の鳴く声に
  幾夜目覚ます須磨の関守

七十九

秋風にたなびく雲の絶え間より
もれ出づる月の影のさやけさ
    左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)

・秋風にたなびいている雲の絶え間から、漏れ出てくる月の光の澄んだ明るさよ。(率直isベスト)

  秋風にたなびく雲の絶え間から
  もれ来る月の光清らか

八十

長からむ心も知らず黒髪の
乱れて今朝(けさ)は物をこそ思へ
    待賢門院堀河
    (たいけんもんいんのほりかわ)

・末長く変わらないかどうか、あなたの心さえ知れません。あなたに別れた後の黒髪の乱れるように、心さえも乱れて、今朝は物思いに沈んでいるのです。

・「長からむ」「乱れて」が「黒髪」の縁語(えんご)となっている。

  末長く寄り添うものか黒髪の
  乱れて今朝は思いわずらう

2010/2/11

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