小倉百人一首の朗読 五

(朗読ファイル) [Topへ]

四十一

恋すてふ我が名はまだき立ちにけり
人知れずこそ思ひそめしか
    壬生忠見(みぶのただみ)

・恋をするという、私の浮き名ははやくも立ってしまった。人に知られないように、思い始めたばかりなのだが。

・この歌で、歌合に負けた壬生忠見が食事を取らずにお亡くなりたという伝説(実際はその後も活躍)を残す一作。上の句と下の句の倒置法、「恋すてふ」という区切れなどで優れた作品だそうである。

  恋すれば浮き名はやくも立つのです
  知られぬ思いを抱いていたのに

四十二

契(ちぎ)りきなかたみに袖(そで)をしぼりつつ
末(すゑ)の松山波越さじとは
    清原元輔(きよはらのもとすけ)

・固く約束をしましたね。互いに涙に濡れては袖をしぼりながら、末の松山を波が越さないと言うように、二人の恋の季節が越えてしまうことなど決してないのだと。

・「末の松山」は陸奥の枕詞でもあり、宮城県の多賀城のあったあたりを指すのではないかと推定。

  契りして互いの袖をしばるもの
  末の松山越す波もなく

四十三

逢ひ見ての後(のち)の心にくらぶれば
昔は物を思はざりけり
    権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)

・逢って契りを結んだ後の募る思いに比べたならば、こうして逢うまえの物思いなどは、思ってもいないのと同じくらいなものだったことよ。

・抱き合った翌朝に詠んだ「後朝(きぬぎぬ)の歌」という説と、抱いてしばらく会えないでいるという説と、抱き合ったら心配事が増えちゃったのよん、くらいの意味だという説があるそうだ。

  いだき合う後のこころに比べれば
  昔はものを思うことなく

四十四

逢ふことの絶えてしなくはなかなかに
人をも身をも恨(うら)みざらまし
    中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)

・逢って契りを交わすことさえ絶えて(けっして)ないならば、かえって相手のつれなさも、自分の思いのつらさにも恨みなど湧かないものを。

  逢うことの決してなければなにごとも

  人をも我も恨まないのに

四十五

あはれとも言ふべき人は思ほえで
身のいたづらになりぬべきかな
    謙徳公(けんとくこう)

・可哀想だとも言ってくれるような人は思い浮かばず、わたしはいたずらに(むなしく)死んでしまうことに、なってしまうに違いありません。

  あわれだと慰める人も浮かばずに
  我が身はむなしく消えてゆくのか

四十六

由良(ゆら)の門(と)を渡る舟人(ふなびと)梶(かぢ)を絶え
行方(ゆくへ)も知らぬ恋の道かな
    曾禰好忠(そねのよしただ)

・(紀伊国に掛かることの多い枕詞であるところの)由良の海峡を、渡る舟人さえも梶を失ってしまい、行方も知らず流されていくような、そんな恋の道なのです。

・上の句が四句目の「行方も知らぬ」の序詞になっている。

  由良の瀬戸(せと)わたる舟人梶も消え

  ゆくえ知れずの恋となります

四十七

八重葎(やへむぐら)しげれる宿(やど)のさびしきに
人こそ見えね秋は来にけり
    恵慶法師(えぎょうほうし)

・八重にも重なるような蔓の雑草の、茂っている宿(歌語で家の意味)のさびしいところへ、訪れる人は見えませんが、秋はやって来ました。

・「荒れたる宿に秋来たる」という題目で歌を読めという題詠歌(だいえいか)。「人」をいにしえの人とみたり、主人と見たりする説もあるようだ。

  八重葎茂りの宿の寂しさに

  訪れるものなく秋の気配よ

四十八

風をいたみ岩うつ波のおのれのみ
くだけて物を思ふころかな
    源重之(みなもとのしげゆき)

・風が激しく、岩に打ち付ける波がおのれひとつに砕けるように、わたしひとりが心も砕けるように、(恋の)思い悩みをするこの頃だなあ。

・「おのれのみくだけて」に「風をいたみ岩うつ波の」が掛かって、「おのれひとつにぶち当たっては砕けて」といった意味が、序詞として掛かる。同時に「おのれのみくだけで」で「わたしひとりが心を砕いて」の意味を掛け合わせている。

  荒風(あらかぜ)に岩うつ波のみずからに
  砕けて物を思うこの頃

四十九

みかきもり衛士(ゑじ)のたく火の夜は燃え
昼は消えつつ物をこそ思へ
    大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)

・御垣(みかき)を守る「みかきもり」である衛士の焚くかがり火が、夜には燃えて、昼には消えるように、わたしの恋心も夜になれば燃え盛り、昼になれば消沈しつつ、思い悩みをするのです。

・二句までが、三句四句に掛かる序詞。そして三句四句が二つの意味を掛けている。

  みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え
  昼は消えながら恋のわずらい

五十

君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひけるかな
    藤原義孝(ふじわらのよしたか)

・あなたの恋のためには惜しくもないと思ったこの命さえも、長くあって欲しいものだと思うようになったことだなあ。(その訳を知りたいじゃて、ぐふふふ。成就したからに決まっておろう……ってイメージ台無し!)

・抱っこし終わった後の(逢瀬・おうせを遂げたなどと言いますが)「後朝の歌(のちぎぬのうた)」

  君のため惜しくはなかった命さえ
  長くありたいと今は思うよ

2010/1/20

[上層へ] [Topへ]