休息 (宮沢賢治)

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休息

そのきらびやかな空間の
上部にはきんぽうげが咲き
 (上等の butter-cup(バツタカツプ) ですが
  牛酪(バター)よりは硫黄と蜜とです)
下にはつめくさや芹がある
ぶりき細工のとんぼが飛び
雨はぱちぱち鳴つてゐる
 (よしきりはなく なく
  それにぐみの木だつてあるのだ)
からだを草に投げだせば
雲には白いとこも黒いとこもあつて
みんなぎらぎら湧いてゐる
帽子をとつて投げつければ黒いきのこしやつぽ
ふんぞりかへればあたまはどての向ふに行く
あくびをすれば
そらにも悪魔がでて来てひかる
 このかれくさはやはらかだ
 もう極上のクツシヨンだ
雲はみんなむしられて
青ぞらは巨きな網の目になつた
それが底びかりする鉱物板だ
 よしきりはひつきりなしにやり
 ひでりはパチパチ降つてくる

     (一九二二、五、一四)

言葉の意味

[しやつぽ→シャッポ]
・フランス語で「帽子」の意味。採掘現場ではヘルメットのこと。

2010/5/18

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