つみびとの歌 (中原中也)

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つみびとの歌

阿部六郎に

わが生は、下手な植木師らに
あまりに夙(はや)く、手を入れられた悲しさよ!
由来わが血の大方は
頭にのぼり、煮え返り、滾(たぎ)り泡だつ。

おちつきがなく、あせり心地に、
つねに外界に索(もと)めんとする。
その行ひは愚かで、
その考へは分ち難い。

かくてこのあはれなる木は、
粗硬な樹皮を、空と風とに、
心はたえず、追惜のおもひに沈み、

懶懦(らんだ)にして、とぎれとぎれの仕草をもち、
人にむかつては心弱く、諂(へつら)ひがちに、かくて
われにもない、愚事のかぎりを仕出来(しでか)してしまふ。

2009/3/16

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