逝く夏の歌 (中原中也)

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逝く夏の歌

並木の梢が深く息を吸つて、
空は高く高く、それを見てゐた。
日の照る砂地に落ちてゐた硝子(ガラス)を、
歩み来た旅人は周章(あわ)てて見付けた。

山の端は、澄んで澄んで、
金魚や娘の口の中を清くする。
飛んでくるあの飛行機には、
昨日私が昆虫の涙を塗つておいた。

風はリボンを空に送り、
私は嘗(かつ)て陥落した海のことを 
その浪のことを語らうと思ふ。

騎兵聯隊[れんたい]や上肢[じょうし]の運動や、
下級官吏[かんり]の赤靴のことや、
山沿ひの道を乗手(のりて)もなく行く
自転車のことを語らうと思ふ。

2009/1/25

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