春の日の夕暮 (中原中也)

(朗読ファイル) (note1924) [解説付] [Topへ]

春の日の夕暮

トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです

吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい
馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするまゝに
従順なのは 春の日の夕暮か

ポトホトと野の中に伽藍(がらん)は紅く
荷馬車の車輪 油を失ひ
私が歴史的現在に物を云へば
嘲る嘲る 空と山とが

瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言ながら 前進します
自(み)[=みずか]らの 静脈管の中へです

言葉など

・最後の部分、「自(み)ら」「自(お)ら」とかいて「みずから」「おのずから」を使い分けていた当時の習慣なので、「みずからの」と読むそうである。

2008/12/30

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