(風が吹く、冷たい風は) (中原中也)

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(風が吹く、冷たい風は)

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風が吹く、冷たい風は
窓の硝子[ガラス]に蒸気を凍りつかせ
それを透かせてぼんやりと
遠くの山が見えまする汽車の朝

僕の希望も悔恨[かいこん]も
もう此処[ここ]までは従[つ]いて来ぬ
僕は手ぶらで走りゆく
胸平板(むねへいばん)のうれしさよ

昨日は何をしたらうか日々何をしてゐたらうか
皆目僕は知りはせぬ
胸平板のうれしさよ

(汽車が小さな駅に着いて、散水車がチヨコナンとあることは、
小倉服の駅員が寒さうであることは、幻燈風景
七里結界[しちりけっかい]に係累[けいるい]はないんだ)

言葉の意味

[悔恨(かいこん)]
・後悔により残念だと思うこと。

[小倉服(おぐらふく)]
・綿織物の一種。

[七里結界(しちりけっかい)]
・仏教で仏道の妨げをなす魔障(ましょう)(悪魔的なもの)を寄せ付けないために四方へ結界を張ること。
・また、忌み嫌って、(人などを)寄せ付けないこと。

[係累(けいるい)]
・つなぎ縛ること。
・心身を束縛するような煩わしい事柄。
・自分の世話すべき、家族、身内などの意味でも使用。

2010/12/28

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