自然は、僕といふ貝に、
花吹雪きを、激しく吹きつけた。
僕は、現識過剰で、
腹上死(ふくじょうし)同然だつた。
自然は、僕を、
吹き通してカラカラにした。
僕は、現識の、
形式だけを残した。
僕は、まるで、
論理の亡者。
僕は、既に、
亡者であつた!
祈祷[きとう]す、世の親よ、子供をして、呑気[のんき]にあらしめよ
かく慫慂[しょうよう]するは、汝が子供の、性に目覚めること、
遅からしめ、それよ、神経質なる者と、なさざらん
ためなればなり。
(一九三五・一・一一)
[腹上死(ふくじょうし)]
・性交さなかにうっかり(という訳でもないが)お亡くなり遊ばすこと。性交死(せいこうし)。
[現識(げんしき)]
・もともと仏教用語だが、ここでは「表象」とか「現在の意識」といった意味なのだそうだ。(文庫本によると)
[慫慂(しょうよう)]
・はたから誘い勧めること。
2011/1/25