星とピエロ (中原中也)

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星とピエロ

何、あれはな、空に吊るした銀紙ぢやよ
かう、ボール紙を剪[き]つて、それに銀紙を張る、
それを綱[あみ]か何かで、空に吊るし上げる、
するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに
光るのぢや。分つたか、さもなけれあ空にあんあものはないのぢや

それあ学者共は、地球のほかにも地球があるなぞといふが
そんなことはみんなウソぢや、銀河系なぞといふのもあれは
女(をなご)共の帯に銀紙を擦[す]り付けたものに過ぎないのぢや
ぞろぞろと、だらしもない、遠くの方ぢやからええやうなものの
ぢやによつて、俺(わし)なざあ、遠くの方はてんきりみんぢやて

見ればこそ腹も立つ、腹が立てば怒りたうなるわい
それを怒らいでジツと我慢してをれば、神秘だのとも云ひたくなる
もともと神秘だのと云ふ連中(やつ)は、例の八ッ当りも出来ぬ弱虫ぢやで
誰怒るすぢもないとて、あんまり始末がよすぎる程の輩(やから)どもが
あんなこと発明をしよつたのぢやわい、分かつたらう

分からなければまだ教へてくれる、空の星が銀紙ぢやないといふても
銀でないものが銀のやうに光りはせぬ、青光りがするつてか
それや青光りもするぢやろう、銀紙ぢやから喃(なう)
向きによつては青光りすることもあるぢや、いや遠いつてか
遠いには正に遠いいが、それや吊し上げる時綱を途方もなう長うしたからのことぢや

2009/03/29
2011/1/20再録音

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