朝 (中原中也)

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雀の声が鳴きました
雨のあがつた朝でした
お葱[ねぎ]が欲しいと思ひました

ポンプの音がしてゐました
頭はからつぽでありました
何を悲しむのやら分りませんが、
心が泣いてをりました

遠い遠い物音を
多分は汽車の汽笛の音に
頼みをかけるよな心持

心が泣いてをりました
寒い空に、油煙[ゆえん]まじりの
煙が吹かれてゐるやうに
焼木杭(やけぼつくい)や霜のやう僕の心は泣いてゐた

     (一九三四・四・二二)

言葉の意味

[焼木杭(やけぼっくい)]
・焼けた杭のこと。また、燃えさし(燃え残り)の杭のこと。
・再び火が付きやすいので、「焼け木杭に火が付く」で男女関係などが、再び以前の関係に戻る、再燃することを表現したりもする。

[油煙(ゆえん)]
・油や樹脂などが不完全燃焼した際に出来る黒色の炭素の粉。それから墨などを製造する。

2011/1/15

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