夜空と酒場 (中原中也)

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夜空と酒場

夜の空は、廣大であつた。
その下に一軒の酒場があつた。

空では星が閃[きら]めいてゐた。
酒場では女が、馬鹿笑ひしてゐた。

夜風は無情な、大浪のやうであつた。
酒場の明りは、外に洩れてゐた。

私は酒場に、這入[はい]つて行った。
おそらく私は、馬鹿面さげてゐた。

だんだん酒は、まはつていつた。
けれども私は、醉ひきれなかつた。

私は私の愚劣を思つた。
けれどもどうさへ、仕方はなかつた。

夜空は大きく、星もあつた。
夜風は無情な、波浪に似てゐた。

2009/05/01

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