我が祈り (中原中也)

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我が祈り

小林秀雄に

神よ、私は俗人の奸策[かんさく]ともない奸策が
いかに細き糸目もて編みなされるかを知つてをります。
神よ、しかしそれがよく編みなされてゐればゐる程、
破れる時には却[かえっ]て速[すみや]かに乱離[らり・らんり]することを知つてをります。

神よ、私は人の世の事象が
いかに微細に織られるかを心理的にも知つてをります。
しかし私はそれらのことを、
一も知らないかの如く生きてをります。

私は此所[ここ]に立つてをります!………
私はもはや歌はうとも叫ばうとも、
描[えが]かうとも説明しようとも致しません!

しかし、噫[ああ]! やがてお恵みが下ります時には、
やさしくうつくしい夜の歌と
櫂歌[かいうた]とをうたはうと思つてをります………


一九二九、一二、一二

言葉の意味

[奸策(かんさく)]
・悪い企み。よこしまな企て。

[乱離(らり・らんり)]
・戦乱などの乱れによって人々が離散すること。
[乱離骨灰(らりこっぱい・らりこはい)]で
・ばらばらに離れる様子。目茶目茶になった様子。
[乱離拡散(らりかくさん・らんりかくさん)]

・戦乱などで人々が拡散してしまった様子。

[櫂歌(かいうた)]
・櫂歌(とうか)と読むのが普通のようだ。棹歌(とうか)と同じで、船頭などの「櫂をこぎながら」あるいは「棹をさしながら」歌う歌。ふな歌。魚取歌などを指すのだろう。

2009/04/26

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