秋の日 (中原中也)

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秋の日

 磧(かはら)づたひの 竝樹(なみき)の 蔭に
秋は 美し 女の 瞼(まぶた)
 泣きも いでなん 空の 潤(うる)み
昔の 馬の 蹄(ひづめ)の 音よ

 長の 年月 疲れの ために
国道 いゆけば 秋は 身に沁む
 なんでも ないてば なんでも ないに
木履(ぼくり)の 音さへ 身に沁みる

 陽は今 磧の 半分に 射し
流れを 無形(むぎやう)の 筏(いかだ)は とほる
 野原は 向ふで 伏せつて ゐるが

連れだつ 友の お道化(どけ)た 調子も
 不思議に 空気に 溶け 込んで
秋は 案じる くちびる 結んで

2009/02/20

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