地球大進化5(坊ちゃん風味)

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説明

 夏目漱石の「坊ちゃん」風味のNHKドキュメント地球大進化レポートの5回目。

第5章、大陸分裂 ー眼に秘められた物語

 恐竜が滅んだ6500万年前から哺乳類の進化を疑りだした。巨大鳥類ディアトリマが肉食の王としてご先祖様をついばみ始めたときは、いよいよ見込みは無いと見限った。ところが巨大鳥類が漲らなかったアジア大陸では案に相違してずんずんと肉食哺乳類ハイエノドントが栄えたから、おや変だなと首をひねった。番組の台本から、ハイエノドントが、うらなり君のためにディアトリマを絶滅したと聞いたときは、それは関心だと手を打った。この様子では悪いのはハイエノドントではあるまい、我々の祖先であるカルポレステスの方がだらしがないんで、恐竜絶滅後も広葉樹の木の実を採って、しかも遠回しに、木から木に移って怯えながら生活をしていたのではあるまいかと疑りだしたところに、草原の真ん中で、ディアトリマがヒラコテリウムを打ちのめしてくちばしでかみ殺している姿を見たから、いらいディアトリマはくせ者だと決めてしまった。くせ者だかよく分からないが、ともかくも善い鳥類じゃない。羽の役割を忘れた鳥だ。鳥さんは雲のように空を羽ばたかなくっちゃ頼もしくない。うらなりの遠い子孫であるカルポレステスの15センチほどの体を餌にする、全長2メートルの巨大鳥類だって、馬の祖先で動きの鈍いヒラコテリウムを、人の走るほどの早さで追い立てて、蹴飛ばして、岩にぶつけて、ライオン並の咀嚼力でかみ砕く方があってたまるか。こんな奴がヨーロッパから北アフリカに掛けてだけでなく、他の大陸でも悉く似たようなチョコボ軍団となって活動を繰り広げたのには恐れ入った。怖くて海外旅行も出来ないと思った。幸いアジアだけは、ヨーロッパ大陸とはツルガイ海峡で分断され、陸続きだったベーリングは氷河に覆われていたため、行き来が出来ず、チョコボの進出を食い止めたのは善かったが、哺乳類の最初の勝者ハイエノドントが進化を遂げて、やはり霊長類の祖先を餌にしていたんじゃあ変わりない。これじゃあ、恐竜の900万年後には未熟な広葉樹で生活をしていたカルポレステスなんて、広葉樹の木の実を食べ尽くして、ひっそり隣の木に移るべく地上に降りた瞬間に、食べ散らかされるのが、関の山だ。親指が内側に曲がっているから、大方すべての霊長類の祖先に違いないと威張ったって、敵に怯えて夜中にでも活動していたのか、眼だけが非常に拡大しているようじゃ褒められるものじゃない。人間も情報の80%は眼から仕入れるというが、なるほど顔の面積を不当に占領するほどの眼の大きさだ。そうなると肉食獣だって哺乳類の仲間であるハイエノドントの方が遙かに勇者らしい。温暖化でベーリングの氷が解けて、巨大鳥類と雌雄を決したときは恐ろしいと思ったが、後で考えると、ディアトリマの40分の1の体重を集団と素早い動きで補ったのは関心だ。とうとう全大陸に進出して、ディアトリマー達巨大鳥類をすっかり絶滅させてしまった。カルポレステスもよっぽど仲直りをしようかと思って、1度2度広葉樹を降りてみたが、野郎返事もしないで、いきなり食らいついてきたから、こっちも恐ろしくなってそのままにしておいた。
 それ以来、カルポレステスは広葉樹から降りられない。世界中針葉樹林の間にひっそりと生息する広葉樹から離れられない。木の実を食べ尽くしては、隣の木に移ろうと地面に降りて、その度に肉食哺乳類の餌食になっている。木から下りればきっと命がない、ハイエノドントは決して許して帰らない。この食物連鎖が2人の障壁となって、カルポレステスは降りようと思っても降りられない、ハイエノドントは頑として待ち伏せている。カルポレステスとハイエノドントには食物連鎖が祟った。仕舞いには俺も放送局に来て、食物連鎖を見るのが嫌になった。
 さて、カルポレステスとハイエノドントが絶交の姿となったに引き替えて、ヨーロッパとグリーンランドは依然の陸続きの関係を改め始めた。グリーンランド沖の海底で3000mの深い穴があちこちに見つかった時などは、マントルの対流で引き裂かれた2つの大陸の間にわき出たマグマが、大陸棚のメタンハイドレートに点火して、立ち所に大爆発を巻き起こして見せた。海面に数キロもの高さの炎の柱が何本も立ち、これが元で今度の地球温暖化は10度以上どころか20度近く上昇しただの、実はベーリングの氷が解けだしたのもこれが原因だの、いろいろな災いを巻き起こした。俺は少々憎らしかったから、今度の温暖化は広葉樹の生態系を変えましたねと赤シャツに云ったら、ええ500年続いて − 広葉樹が巨大な大木に成長ですか、嬉しいじゃないかと云う。とうとう枝が横に張り出すように成りましたねと繰り出して遣ったら、いいえそれは僕のせいじゃない、広葉樹が自ら勝手に隣の枝と重なり合って樹冠を形成して、と答えた。何もそんなに隠さないでもよかろう。現にアフリカ南東のマダガスカル島に行ってみると、樹冠が密集して居るんだ。こんな樹冠が世界中に生まれたお陰で、ご先祖は地上に降りなくても隣の木に飛び移れるようになったんじゃないか。

 ある日の収録で赤シャツがちょっと君に話があるから、事務所まで来てくれと言うから、惜しいとは思ったが動物園行きを欠勤して4時頃出かけていった。
 赤シャツにあって用事を聞いてみると、大将例の熊の縫いぐるみを膝に乗せて、よく来たと手を振って見せながら、こんな事を言った。「樹冠が出来てから、カルポレステスの時代よりも生活の幅が広がって、子孫のショショニアスも大いに良い場所を得たと喜んでいるのだから − どうか放送局でも喜んでいるのだから、その積もりで進行していただきたい」
「へえ、そうですか、進行って今より進行は出来ませんが−」
「今の位で十分です。ただ先だって説明したことですね、あれを忘れずにいて下さればいいのです」
「メタンハイドレートの温暖化で南極大陸も含め世界中が広葉樹林ですか」
「そう露骨に云うと、意味もない事になるが − まあ善いさ − 精神は君にもよく通じている事だと思うから。それで君が今のように進行して下されば、ショショニアスの方でも、ちゃんと見えているんだから、もう少しして都合さえ付けば、立体視のことも多少はどうにかなるだろうとおもうんですがね」
「へえ、視力ですか。視力なんかどうでもいいんですが、上がれば上がった方がいいですね。」
「それで幸い今度樹冠が至る所に出来たから − もっともショショニアスに相談してみないと無論請け合えない事だが − こっちの幹からすこしは飛び移る事が出来るかも知れないから、それで立体視を発達させて樹冠中を飛び回れれば地上に降りる必要は無くなると思うんですがね。」
「距離感が掴めて大変結構です。それで何に進化するんですか。」
「もう発表になるから話しても差し支えないでしょう。実はカトピテクスです」
「カトピテクスは、だって同じ霊長類の祖先じゃありませんか」
「同じ霊長類ですが、少し進化があって − 半分は立体視の続きです」
「どこに居るんです」
「サハラ砂漠で − 見つかった土地が土地だから私が自ら行って調べました」
「それで何が分かりました」
「それを今から説明しようというのです。その説明の具合で君の進行上の都合もつくんです」
「はあ、結構です。しかし無理に進行しないでも構いません」
「ともかくも僕は調査の報告をするつもりです。広葉樹林の楽園が崩壊するところをお知らせすることになるかもしれません。」
「それは承知です。どうせ荒ぶる父の事ですから。」
とうち捨てて、そこそこで戻ってきた。

 戻って赤シャツが説明するVTRをうんと覗き込んだ。学者には随分得体の知れない男が居る。性格は無論、従える弟子の野田公まで不足があると云うのに、律儀に見知らぬ大陸へ調査に出かける。それも花の都のエッフェル塔が建っているところなら、まだしもだが、サハラの砂漠とは何の事だ。おれは船着きの良いオーキフェノーキーに行ってさえ、1日立たないうちにもう帰りたくなった。サハラ砂漠と云えば、陸の海も陸の海、船も付けない不毛地帯だ。いかに嫌みの赤シャツだって、好んでラクダの相手になりたくもないだろうに、何という学者魂だ。
 ところへ相変わらず台本を手がけた婆さんが次の台詞を運んでくる。今日もまた荒ぶる父ですかいと聞いてみたら、いえ今日は大陸分裂ぞなもしと云った。どっちにしたって似たものだ。
「お婆さん南極が分裂するそうですね。」
「ほんとにお気の毒じゃな、もし」
「お気の毒だって、好んで分かれるなら仕方がないですね」
「好んで分かれるて、誰がぞなもし」
「誰がぞなもしって、当人がさ。南極大陸が物好きに分裂するんじゃありませんか」
「そりゃあなた、大違いの勘五郎ぞなもし」
「勘五郎かね。だって今赤シャツがそう説明しましたぜ。それが勘五郎なら赤シャツは嘘つきの法螺衛門だ」
「学者さんが、時間の都合でかみ砕いて説明するのはもっともじゃが、南極の分裂したくないのももっともぞなもし」
「そんなら両方もっともなんですね。お婆さんは公平でいい。一体どういう訳なんですい」
「いま生徒の野田さんが見えて、だんだん訳をお話したがなもし」
「どんな訳をお話たんです」
「南極も5500年前にメタンハイドレートが噴出する頃から、マントルの影響で大陸が張り裂けそうで困るから、荒ぶるお父さんにお頼みて、もうずっと以前からオーストリアや南アメリカとは陸続きで、お陰で赤道の暖流も流れ込んでくるものじゃけれ、どうぞ両大陸との分裂を、今少し待っておくれんかてて、あなた」
「なるほど」
「お父さんが、ようまあ考えてみとこうとお言いたげな。それで南極も安心して、今にマントルの対流が止まろうぞ、今年か来年かと首を長くし待っておいでたところへ、お父さんがちょっと来てくれと南極にお云いるけれ、云ってみると、気の毒だが地球はバランスが崩れるけれ、マントルを止めるわけにゆかん。いっそ完全分裂なら誰にも邪魔もされんで、切り離された大陸の周りを海が周極流として回転するから、暖流の流れも途絶えて、暑苦しい亜熱帯の森林も無くなるから、しがらみも無くなって善かろうと思うて、その手続きにしたから分裂したがええと云われたげな。−」
「じゃ相談じゃない、命令じゃありませんか」
「さよよ。南極は分裂して寒冷化が増すより、元のままでもええから、亜熱帯で居たい。広葉樹林もあるし、暖流も流れ込むからとお頼みたけれども、もうそう決めた後で、南極の分裂は出来ているけれ仕方がないと荒ぶる父がお云いたげな」
「へん人を馬鹿にしていら、面白くもない。じゃ南極は分裂する気は無いんですね。どうれで変だと思った。メタンハイドレートが溶けて気温が上がったからって、5500万年前にヨーロッパとグリーンランドの分裂を引き起こしたマントルの対流が、一方では南極を温暖な大陸から切り離して居たなんて、そんな頓珍漢な話はありませんからね」
「頓珍漢て、先生なんぞなもし」
「何でもいいでさあ、 − 全く荒ぶる父の作略(さりゃく)だね。よくない仕打ちだ。まるでだまし討ちですね。それでカトピテクスに進化させてやるなんて、不都合な事があるものか。進化させてやるったって、誰が進行してやるものか」
「カトピテクスは視力がお上りるのかなもし」
「上げてやるっていうから、断ろうと思うんです」
「何で、お断わりるのぞなもし」
「何でもお断わりだ。お婆さん、荒ぶる父は馬鹿ですぜ。卑怯でさあ」 「卑怯でもあなた、視力を上げておくれたら、大人しく頂いて置く方が得ぞなもし。ショショニアスのうちは眼もぼやけて見えんかったが、カトピテクスに成ってから考えると、眼の後ろに眼窩後壁(がんかこうへき)があればよかったのに惜しい事をした。視細胞の集まりであるフォベアが足りなかった為に、視細胞も全く足らなかったと懐かしむのが当たり前じゃけれ、お婆の言う事をきいて、荒ぶる父が視力を上げてやろうとお言いたら、ありがとうと受けてお置きなさいや」
「俺と同じ年寄りのくせに余計な世話をやかなくってもいい。カトピテクスの視力が上がろうと下がろうと俺が進行するんだ」

 婆さんは黙って引き込んだ。俺は先ほど放映された赤シャツの説明を思い出し、温暖化を引き起こして樹冠の楽園を作り出したマントルの対流が、同時に南極を孤立させ、今から3300万年前には周極流で暖流を防ぎ、南極を氷の大地にした荒ぶる父の2重の罠に腹が立って仕方がない。お陰で地球の温度は30度も下がり、夢の広葉樹の楽園は急速にすぼんでしまった。この過酷な環境がショショニアスの子孫であるカトピテクスの視力をさらに進化させ、眼球を固定させる眼窩後壁と視細胞の集まるフォベアの形成によって、周囲はぼやけるが目的がはっきり見え、距離感も掴める視力を誕生させた。まてよ、それじゃあ俺の勘違いでむしろ大いに結構だったのかと、あれこれ悩んでいる間に今日のまとめの台詞が出されたが、頭が疲れているところに、「ぼくは食べる事に眼がないんだが、ご先祖様は食う事に血眼だった!」と元気よくおにぎりを食べながら述べよと指示が出ていたので、何だか急に腹が立ったから、先ほど赤シャツにしっかり進行をするように注意された事も忘れて、手に持ったおにぎりをテレビカメラの方に投げつけてしまった。
 これで俺も降板かと思ったが、どうも驚く、ナレーションのマドンナがおにぎりを受け止めて、そのままサルに与えて最後の場面を美しく演出したかと思ったら、直ちに最後のナレーションを始めてしまった。
 「フォベアの高い視力がチンパンジーのように沢山の表情筋による顔でのコミュニケーションを育み、相手の顔を見て表情で会話をする事が、グループ内での秩序を生み出して、ただの群れではない、お互いを認識して、共同作業をし、ついには分業を行う社会生活を生み出すのです。チンパンジーはすでに10種類以上の表情を生み出し、表情の遣り取りの中から、私達には、ついに心が生まれるのです。私たちの目を見て下さい、白目です、白目があります。白目は敵に視線を悟られる弱点を越えて、相手をはっきり見ている事を相手に伝えるために、そうです、平和のために発達したのです。」
 これを聞いて俺も救って貰った上に駄々をこねる訳にはいかないから、気を取り直して「ただ生きるのではなく、どう共に生きるのか。」と最後のまとめに取りかかった。「この時だ、この時をもって、ただの烏合の群れが、共同生活の社会への第一歩を踏み出したのだ。白目だと、なんだ白目ぐらい、魚にだってあるじゃないか。でもただの白目じゃない。相手の視線を見分けることで、相手と理解し合えるすこぶる良好な白目なんだ。さあ、お嬢さん、手を取り合って共に踊りましょう」
 といって自分の孫ほどの若いナレーションと社交ダンスを踊りつつ今回を終了してみた。ただ、赤シャツが恐ろしいような眼を白黒させて、俺を睨んでいるのには、「参った、参った。」

2005/3月中頃
掲載2005/09/04

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