地球大進化4(坊ちゃん風味)

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説明

 夏目漱石の「坊ちゃん」風味のNHKドキュメント地球大進化レポートの4回目。

第4章、大量絶滅 ー大噴火がほ乳類を生んだ

 いよいよバットニュースが出た。初めて6500万年前の隕石落下を知ったときはなんだか変だった。CGを見ながら、これでも恐竜が滅びるのかと思った。隕石は恐ろしい。時々図抜けた大きななりで地表にぶち当たる。ぶち当たるには応えた。今まで白亜紀で毎日大型の恐竜がのさばっていたが、恐竜が居るのと、恐竜が滅びた後では雲泥の差だ。新しい生命の繁栄が始まって地球上がむずむずする。俺はまるっきり馬鹿ではない、読解力のない男でもないが、惜しいことに想像力が欠けている。今度は2億5千万年前の大量絶滅を見るのだと云われると、95%の動植物絶滅も6500万年前の恐竜絶滅も区別が付かない。番組が始まって洞窟の前に立たされた時は、「おおい、おおい」と暗闇に呼びかけたら「へえい」と声がするので、何だかいい加減に中に潜ってしまった。しかしランプを持っていたので別段困った事件も起きずに進んだ。急に真っ暗な広がりに出たと思ったら、幾つもの化石がわざとらしく形を整えて陳列してあった。同行のカメラマンがどうだいと聞くから、俺はうんと単簡に返事をして預かっていたビデオ無線を取り出しスイッチを入れた。猪口才にも地上で留守番を決め込んだ赤シャツと野田に連絡を取るためである。奴さんさっそく液晶に顔を出すと、ご苦労様の一つも言わずにいきなり化石の解説を始めた。後ろでは野田が「南アフリカはカルー盆地からお借りした化石でげすなあ。」と生意気な注釈を加えている。いつ見ても忌々しい。
 「その化石は恐竜が栄えるよりいっそう昔に2000万年前ほど遡った生物の亡骸で、少しく乾燥した大地に栄えた哺乳類型爬虫類(はちゅうるい)と呼ばれる体長3メートルの大型生物だったが、入って右に控えるのがディイクトドンという草食動物で、左に御座(おわ)すのがゴルゴノプスという肉食百獣の王で、彼らは共に爬虫類のように卵を産んで子孫を残す一方で、骨格や骨には君のようなほ乳類の性質が見られるのだから、、おそらく我々の遠い祖先に当たるに違いない。我々は早速お供え物を差し上げようじゃないか。」
 何が我々だ、地表で暢気な声を出して、番組の収録でなかったら地表に飛び返ってひっぱたいて遣るところだが、ようく我慢して線香を供えて「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と唱えながら供えられた饅頭を奪い取って頬張りながら奥に向かった。狭く息苦しい暗闇を抜けると、不意に酸素濃度の高い開けた空洞が現れて、ライトに照らされたオブジェがやに光る。見つめていても目がくらむ。ディズニーランドの見せ物じゃあるまいし、無駄な資金を投入しすぎだ。巨大な生物が見せ物見たように数体置かれているので、首にかけられたプレートを見ると、「は虫類型哺乳類の大繁栄」と注がふってある。早速御自慢のポケット進化カレンダーを取り出し同じ動物を照合してみたところ、今から2億5400万年前をかたどったアトラクションらしい。その横では洞窟の中を流れて川が走って、特に明るいライトが50センチほどの小動物を照らしている。俺は考えがあるから小さな模型に近づいて覗き込んだら、川魚を捕えた生き物の横に「人類の祖先キノドン類」と書かれている。なんだ、てっきりあのでっかい奴が祖先かと頼もしく思っていたのが、うらなり君の祖先は時代を下ってもうらなり君で臆病な小動物のままだった。あんまりがっかりしたから、近くを見渡すともっと小さな体長の可愛い模型が怯え気味の首を曲げて、こっちを見詰めたまま置かれている。あわてて入り口で貰った、洞穴アトラクションのパンフレットを広げると、こいつこそが後の恐竜の祖先だと書いてある。非常に嬉しくなって来たので「双弓(そうきゅう)類」と書かれたプレート諸共に小さな模型を川の真ん中に放り込んでやったら、ボチャリと音がして水を跳ね飛ばして底に沈んだ。ざまあ見やがれ。するとカメラマンがまじめな顔で、君あまり放送局の財産をないがしろにしては、いかんぜ。と心配するから。おおかた大丈夫だろう、と答えてきびきび次のアトラクションに進んだ。

 再び明かりに照らされた地下広場にたどり着いたときは驚いた。先ほどからほんの400万年過ぎただけなのに、照らすライトも早おぼろ、でこぼこの岩だけが広がって、生物の置物一つ見つからない。漸くのこと探し回って岩陰に隠れた小さな泉を見つけたら、「地上最後の水たまり」と書かれたプラカードの周りに、沢山の生物達が干からびて重なり合って倒れている。その中には相手の尻にかぶりついたのが居る。他の巨大動物に踏みつけられてのしお萩た(注.平らにされた)のも居る。よっぽどのことが無くてはこんな修羅場が化石に保存されるはずがない。しかし残念な事に俺には説明の付けようがない。こんな時は赤シャツを呼ぶに限るから、連絡を付けて液晶を見つめると、奴さん大方人の苦労を良い事に、遊び回っているに違いない、カメラには謎の赤いシャツを着た熊さん縫いぐるみが映し出され、ただ声だけがやる気十分で縫いぐるみのまま解説を始める。俺は馬鹿らしいから突っ込みも入れず、黙って任せて置いた。
 「その水たまりこそ、2億5000年前の大量絶滅の幕開けの象徴だったのですね。最近石油発掘を目指して西シベリアで3000メートルも深くに試掘(しくつ)して、原油は有らんものか探りを入れたところ、急に恐ろしく堅い岩盤に辿り着いた。これはと思って調べて見ると、固い岩盤の広がりは西シベリア地方はおろか中央シベリアまで伸びて、時には隆起した山脈の荒肌を通り筋のように連なって、ある時は地中深くに埋まって、日本国土の5倍の面積にも達して分布している事が分かりました。これは大変な事になった、石油どころの騒ぎじゃないと学者を動員して研究を進めていくと、どうも驚く、2000〜3000メートルもの高さに噴き上がった地球史上最大の巨大噴火が、今日見られる大火山の10倍規模で発生して、長さ50kmにも達する地割れから巨大な炎を上げ、シベリア一帯はことごとく溶岩の洪水となった名残りだというのです。しかしなぜそんなことになったのでしょう。その答えは西シベリアの地下に眠る巨大な大地の裂け目にありました。」
 赤シャツが締めくくると、たちまち洞窟が轟音と共に空洞ごとに暴れ回り照明が火花を散らし、天上岩まで降り落ちたかと思ったら、大声に狼狽しては大地にへばりつくカメラマンの横を亀裂が走り抜け、慌てた俺が飛び退いた途端に地面はまっぷたつに割れて、裂け目から真っ赤な炎がゴウとして突き上げてきた。俺は思わず石柱にしがみつきながら怯え気味に様子をうかがうと、不愉快千万不届き天を抜ける、「ほほほほ。」と赤シャツの小生意気な笑い声が響きわたったのである。
 「シベリアの地下に幅100km長さ1500kmにも渡る亀裂が走っているのを見つけ調べてみたところ、地球の地下深くからドーム状の何かがこのように突き上げてきたと言うから、無闇に洞窟などに入るとやっぱりひどい目に遭うでしょう。」
 俺が目くじら立てて液晶テレビを睨むと、相変わらず赤い縫いぐるみが調子にのって動作を交え、拳を何度も何度も上の方に突き上げて見せた。テロップに「こんなふうに、こんなふうに突き上げた。」説明書きまである。非常な屈辱だ、憎らしいことこの上ない。しかし、どうしようもないから、腹立ち紛れに捕まえていた石柱を力任せにへし折って遣った。
 「君、無茶をしちゃあ困る。高い経費を払って制作しているのだから、ここが我慢だと思って辛抱してくれたまえ。それで吹き上げてきたのは要するに巨大火山の一種なのだが、これは元を辿れば大陸移動の結果から大事件に発展したのだね。」
 「大陸移動は構いませんが、これは何の冗談です。ただでさえ高齢で弱っている心臓が停止したら、いった責任をどう付けるつもりです。」と半分怒り声で倒れたカメラの方にあごを出して捲し立てると、「まさに不意打ちだったのだから仕方がないですね。3億年前に大陸移動が巡り会いを演じて、ある時地上の楽園悉く一つの陸地に集まって目出度くもパンゲアと成ったのですが、その周囲を覆っていた海溝は沈むべき大陸がただ一つとなったために、あまりの重力に偏ったマントルが地球内部にひたすら沈み込んで、とうとう地下2900kmの中心にある核にまで落ち込んでしまった。それで核と衝突して、巨大な衝撃が反動となって地表に向けて上昇し、直径1千kmにも達するスーパープルームとなって地表を突き抜けたのです。」
 そう云うと、演出のためか、先ほど出来た地割れから膨大な炎がゴウとして燃え上がった。西ヨーロッパを丸ごと飲み込むほどの直径1000kmの火の玉が昇ってきて、シベリア全体を溶岩のプールに変えるとはそりゃなんだ、それじゃあ地上の生物形態が滅茶苦茶になってしまうと叫ぶと、赤シャツがしたり声で「しかしスーパープルームだけじゃあ、まだ生物の95%は損なわれない。この事件はこれから先に向かって拡大の一途をたどるのだから、ぜひとも次のアトラクションを見給え。」と云う。あまり炎が熱いんで逆らう気も失せて、俺とカメラマンは洞窟を奥に逃げ延びた。

 こんなアトラクションをしては経費が幾ら有っても足りないだろう、スーパームルームは分かったから、あまり無茶は止めた方がいいとカメラマンに云うと、俺もこんな話は聞いていない、これから先もアトラクションが続くかと思うと先が恐ろしい、と情けない返事をした。なに、制作物だと分かっていれば何も怖くはないさと答えたが、カメラマンが返事をするより早く地面の底から声が響き、「怖くはない、怖くはない、怖くは無いが、乗ぜられる」と赤シャツの声が愉快そうに響き渡り、その後に間髪なく「乗ぜられるぞ、こーりゃこりゃ。」と野田公の合いの手が太鼓を叩いた。なんという猪口才だ、「いいから先に進めるがいい」と怒鳴ったら、今度は返事が無く、代りに次のコーナーが現れた。光の照らし出すままに進んでいくと、青白く照らされた透明なガラスケースにドライアイスのような物が何となく溶け出して、おぼろげな気体を発しているように見える。説明1とあるボタンがあったので考えもなく押したら、この白い固形物に火が点火され、青い炎を上げながら燃え出すと同時に録音されたテープが回り解説を始めた。
 「近年未来エネルギーの有力候補とされるメタンハイドレートは、大陸棚1000mから2000m付近に横たわる固体となったメタンガスと水の結びついた膨大なプレートで、日本海沖合にも大量に眠り、今日世界埋蔵量は石油や天然ガスに匹敵するとさえ言われます。この絶妙なる低温状態で固形に保たれたメタンハイドレートは、一端温度が上がり溶け出すやいなや、固形の160倍に膨らんだ大量のメタンガスを発生させ、海底温度がわずか2,3度上昇しただけでも、ハイドレートは溶解を開始するのです。さて、改めて95%の生物絶滅があった地層を調べてみますと炭素12が沢山見られるので、おそらくこのプレートが溶け始めて地球温暖化の引き金が引かれた証拠かもしれません。そのプロセスは黄色のボタンを押してお楽しみ下さい。」
 と丁寧に順序を説明するから、感心な奴だと嬉しくなって黄色いボタンに手を掛けようとしたところ、急に背中を引っ張られたような感触がある。何だと思って振り向くと、カメラマンが首を横に振りながら、止めた方が良かろうと訴えている。手を振り回す大げさなジェスチャーを交えて「剣呑、剣呑」と叫ぶから、俺はなんだか楽しくなって語呂だけ合わせて「愉快、愉快」と答えながら、後先考えなく黄色いボタンを押しちまったら、おかげで大変なことになった。いきなり先ほど大噴火を演じた洞窟の方から白い気体が流れ込んできて、しまったこれはドライアイスだな、これじゃあ2酸化炭素濃度が増えちまう、と思ったときには洞窟の温度は大気温暖化に合わせて2,3度上昇して、待ってましたと至る所岩石の替わりにすげ替えられたメタンハイドレートが一斉に溶け出した。溶けるメタンハイドレートが二酸化炭素以上の温暖化を引き起こし、さらにメタンハイドレートが溶ける。遂に気温は赤道で7,8度、両極では25度も上昇し、大地は干上がって動植物諸共生態系が崩壊した。そして5%を除いて生物は対応するまもなく滅び去ったのである。それは分かったが、洞窟の気温が上昇するのは二酸化炭素のせいじゃない、演出のせいだ、こう熱くては俺たちまで洞窟の中で干上がっちまう。おまけに酸素濃度が下がって呼吸まで出来なくなってきた。俺たちの先祖のキノドン類だって生き延びて5%の中に含まれていたから俺たちが居るのだ。俺とカメラマンは難を逃れようと口を金魚のようにして酸素を確保しながら慌てて洞窟の奥に走り去った。

 漸く洞窟の気温が落ち着いたのは結構だが、何だか息が苦しい。馬鹿みたいに二酸化炭素とメタンガスを大量にばらまいたためか、いやに酸素が足りない。スーパープルームの前には巨大植物群で30%の濃度にも達した酸素がすっかり乏しくなってしまった。息を切らしたカメラマンがぜいぜい云いながら、「おや、この矢印は何のつもりだろう」と言うから驚いて振り向くと、奴さん震えながら洞窟の壁面を指さしている。何があったとライトを近づけると断層気味に地層が筋状になって、そこに矢印が食っ付いている。矢印の先には真っ赤な文字で「ベルチェリン有ります」と書いてあった。カメラマンの説明ではベルチェリンは特殊な鉱物だから、よっぽど酸素濃度が低くならないと生成されないんだそうだが、はなはだ難儀なことだ。この鉱物が見られる温暖化以後の世界の酸素濃度を聞くと、植物の大量絶滅にメタンガスと酸素の結合が重なって全体の10%足らずに落ち込んだと答えたので、何だか急に息が続かなくなってきた。遂に化石すらほとんど残されていない空白の時代に突入したのだ。
 吸いたい酸素の吸えないのは情けない、でも先に進めず絶滅したのはもっと情けないだろう。生き延びたキノドンのことを思うと、俺も不幸は語れないわけだ。それにしてもこの暗黒の時代は長すぎる、あんまり苦しいので低酸素時代がいつまで続くか、進化カレンダーを取り出して計測したところ、1億年も歩かないと酸素濃度は回復しないそうだ。仕方がないんで俺たちは交互に酸素スプレーをつるつるちゅっちゅすすりながら先に進んで行った。するととうとう遠くの方に隠れていた次のアトラクションが現れて、俺に「ようこそお越しやす」と挨拶をするから、また愉快になって踏み込むと、驚いたことにそこには見覚えのあるジュラ紀後期の世界が広がり、子供の頃図鑑で見たような巨大爬虫類である恐竜たちが財政が破綻するかと思うほどの豪華なセットで再現されている。さすがに30メートルも有る草食恐竜アパトサウルスや、肉食恐竜の王者アロサウルスは首だけが突き出たり、背景に描き込まれたり誤魔化してあるが、よくぞ洞窟の奥深くに番組のためだけに拵えたとは思えない充実ぶりだ。それにしても洞窟の入り口でジュラ紀より以前の哺乳類型は虫類の活躍を見ておいて、やっぱり恐竜の時代で御座いますは割に合わない。こんな時は赤シャツを利用するに限る。早速連絡して解説を求めた。相変わらず映し出されたのは熊の縫いぐるみだ。
 「それには、長い低酸素時代が大きく関わりを持っているのですが、つまり恐竜が酸素効率の良い機関を獲得したのが原因です。気嚢システムというと、今日でも沢山の鳥たちがこのシステムを保ち続けて、空を駆け抜けるほどのエネルギーを獲得しているのですが、それじゃあここで、私の作った気嚢システムの図を見ていただこうか。−さて、ここに肺の図があるです、様子が違うって、これは我々の肺じゃあない。気嚢システムの肺だ。ほら、この中央センターの肺の周りに、幾つかの空気のたまり場があるでしょう。つまり、こことここですね。」と熊の縫いぐるみに棒を持たせて指さして、「この小さな袋を数カ所設置することによって、息を吸って酸素を取り入れているこのAの図から移り変わって、息を吐き出すこちら、Bの図の時でも酸素が中央センターに入り込むのが分かるでしょう。この仕組みが気嚢システムです。これによって哺乳類の3倍のエネルギー効率を獲得しましたから、1億年も続く低酸素時代の最後の瞬間であるジュラ紀後期に至っても、繁栄の極みは恐竜の方に有ったわけです。」と赤シャツが説明する後ろで、野田が「リョウバン類という恐竜の気嚢システムに勝る物なしでげすなあ。」と嫌な声を出す。呼びもしない野田は差し控えて黙って指でもしゃぶって寝ているがいい。俺はご先祖のことが心配になったから「それじゃあ、ほ乳類型は旧来の酸素取り込みを続けたのですか」と聞いてみた。「いいえ、もちろん哺乳類も馬鹿じゃあない。腹を覆っていた骨を肋骨だけ残し取り去って、横隔膜による腹式呼吸システムを生み出して、一度に大量の空気を肺に送り込むことが出来るようになった。もちろんこれは当時の恐竜に比べればエネルギー効率の点では劣っていましたが、それによる利点もあったのです。」
「何です、鳴き声が増えでもしましたか」
「馬鹿を言っちゃあいけない。間違いになる。実は腹に骨がある内は出来なかったんだが、一つに腹を上に向けて授乳できるようになったことが、愛情を育んだという説もあるぐらいです。しかし本当の利点は腹の部分を膨らませるのに気をよくして、低酸素の猛威を乗り切る為に卵を産むことを止めて、繋がった血液から酸素を送り込み送り込み腹の中で子供を成長させて、初めて世間様に顔を出すという「胎生」が生まれるのですね。」なるほど赤シャツにしては珍しく上等な説明だと感心していると、野田が頓着無く「胎生奉還でげすなあ」とあらぬ事を口走ったのには驚いた。さすが赤シャツも腹を立てたか、どたばたと足音が響くと、そこで通信は途切れてしまった。カメラマンは頓着なく、なるほど面白い、子供入りだねえ、と胎生を感心するから、俺もパンフレットを開いて確認して、2人揃って大急ぎで最初の胎生のコーナーに向かって走り出した。

 ライトに照らし出された化石を見ると、1億2500万年前の化石で中国産の印が掘ってある。好事家はよほどこの印が気に掛かるらしいが、俺はそんなことに構ってはいられない、カメラマンは無知をさらけ出して眼が4つ有るのは珍しい、これはやっぱりネズミでしょうと訳の分からない解釈を始めたが、俺は気にしなかった。眺め見ると「エオマイア、つまり黎明期の母」とプレートに解説が加えてある。胎生で子供を育てるすべての哺乳類の母親に相応しい名前に大いに感心して、「腹にはみ、生を授かり、なお母の、鼓動の内に、愛を知るべし」と一息に歌い立ち上がると、「愛情か、愛情までも荒ぶる父のおかげなのか!」と最後の締めくくりに取りかかった。エオマイア、お前のおかげか今回の収録は大いに感じ入るものがあった、俺は台本になく洞窟を走り出して、「暗闇、暗闇、回り道、遠回りを強いられた荒ぶる父の元で、近道を進んでいたら居なかった私たち、遠回り有ってこその私たち」と叫びながらとうとう辿り着いて、光の差す出口を見つけ、勢いよく飛び出すと、赤シャツ野田公ナレーションのマドンナに収録の面々悉く俺を迎え拍手喝采を持って微笑みを讃えて迎えてくれた。俺が勢いよく「口元には笑みを浮かべ」と叫んだら、「荒ぶる父を讃えよう」と全員一斉に答えて、ナレーションが歩み出て最後の台詞を美しい声で読み始めた。
 「恐竜の栄えた1億6千万年後のことです。今から6500万年前の巨大隕石の衝突で恐竜が絶滅した後にも生き延びたエオマイアの祖先達は、酸素濃度も回復した地上の楽園で、新しい進化を遂げ始めるのです。恐竜の気嚢システムを引き継いだ鳥たちは、効率のすぐれた気嚢システムを活用して大空を羽ばたき、私たちは大量の酸素を必要とする大きな脳を手に入れたのです。体重のたった2%の質量しかもたない脳のために、私たちは20%もの酸素を使用して、ものを語り、ものを生み出し、あらやだ、とうとうこんな番組まで制作してしまいました。」と締めくくれば、今日のエンディングのために作曲した「エオマイヤよ永遠に」を合唱して番組は大円団を迎えるのだった。愉快、愉快!

2005/3月始め
掲載2005/09/03

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