一段、春はあけぼの

(朗読ファイル) [Topへ]

一段 春はあけぼの

 春はあけぼの[夜明け頃]。やうやう[しだいに]白くなりゆく。山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなぎきたる。

 夏は夜。月のころはさらなり[言ふもさらなりの略。もちろんである]。やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ほたるのただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて飛び行くもをかし[趣深い]。雨など降るもをかし。

 秋は夕暮れ。夕日のさして山の端(は)いと近うなりたるに、からすのそろそろ寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさえあはれなり[趣深い]。まいて[まして]かり[雁]などの連ねたるが、いと小さく見ゆるはいとをかし。日入り果てて、風の音(おと)、虫の音(ね)など、はた[これまた]言ふべきにあらず[言ふまでもなく、後ろにをかしが省略]

 冬はつとめて[早朝]。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きもいとをかし、またさらでも[そうでなくても]いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて廊下などをわたるもいとつきづきし[似合っている]。昼になりて、気温のぬるくゆるびもていけば[寒さがだんだん弛んで温くなってくると]、火桶(ひおけ)の火も白き灰がちになりてわろし[みっともない]

2010/1/15

[上層へ] [Topへ]