藤原公任 「和歌九品」 原文と朗読

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藤原公任 「和歌九品(わかくほん)」

朗読者注

・九本部分の読み、すなわち()内の平仮名書だけは現代語表記する。また、「見ゆらん」などは、歴史的仮名遣い、すなわち「見ゆらむ」と改める。しかし「ん」の表記古典に意外に多く、これを「む」にする意義が、はたしてあるものかどうか、近頃怪しく思うようになりつつある。また例の如く、朗読者の好みにより、繰り返しに「/\」や「ゝ」などを使用するのは、必ずしも原文に従ったものではない。

・勅撰和歌集などの掲載と若干異なるものは、それが九品の意義に関わらないものは、これを勅撰和歌集などの歌詞に改めるが、九品の意義を違(たが)える恐れのあるものは、その和歌を注に補った。

・原文には読み人などは掲載されていないが、和歌の最後に(古今集 誰々)などと作者を加えておく。

・はじめに「四條大納言」とあるのは、つまり藤原公任のことである。

和歌九品(わかくほん)

       四條大納言撰(しじょうだいなごんせん)

上品上(じょうぼんじょう)
  これは、詞(ことば)妙(たへ)にして、あまりの心さへあるなり

春立つと いふばかりにや み吉野の
  山もかすみて けさは見ゆらむ
       (拾遺集 壬生忠岑 1番)

ほの/”\と 明石のうらの 朝霧に
  島かくれゆく 舟をしぞおもふ
       (古今集 読み人知らず 409番)

上中 (じょうぼんちゅう、の省略形)
  ほどうるはしくて、あまりの心あるなり

み山には あられ降るらし 外山(とやま)なる
  まさ木のかづら 色づきにけり
       (古今集 読み人知らず 1077番)

あふさかの 関の清水に 影みえて
  今や引くらむ もち月(づき)の駒
       (拾遺集 紀貫之 170番)

上下 (じょうぼんげ、の省略)
  心深からねども、おもしろき所あるなり

世の中に たえて桜の なかりせば
  春の心は のどけからまし
       (古今集 在原業平 53番)

[参照した原文には「たへて櫻の」とある。もっぱら「絶えて」の意味で「え」表記されるが、果たして「耐へて」の意味を兼ねたものならば、「へ」の表記、間違いと言えるものか]

望月(もちづき)の 駒引きわたす 音すなり
  せたの長道 橋もとゞろに
       (麗花集 平兼盛)

[四句、平仮名表記で「せたのなかみち」となるためか、「中道」と「長道」と共に取られたものあり]

中上 (ちゅうぼんじょう、の省略)
   心詞、とゞこほらずして、おもしろきなり

立ちとまり 見てを渡らむ もみぢ葉は
  雨と降るとも 水はまさらじ
       (古今集 凡河内躬恒 305番)

かの岡に はぎ刈るをのこ 縄をなみ
   ねるやねりその くだけてぞ思ふ
       (拾遺集 凡河内躬恒 813番)

中々 (ちゅうぼんちゅう、の省略)
 すぐれたる事もなく、悪(わろ)き所もなくて、あるべきさまを知れるなり

春来(き)ぬと 人はいへども うぐひすの
  鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ
        (古今集 壬生忠岑 11番)

いにし年 ねこじて植ゑし わが宿の
  若木(わかき)の梅は 花咲きにけり
        (拾遺集 安倍広庭 1008番)

中下 (ちゅうぼんげ、の省略)
 少し思ひたる所あるなり

昨日こそ 早苗(さなへ)取りしか いつの間に
  稲葉(いなば)そよぎて 秋風の吹く
         (古今集 読み人知らず 172番)

[参照原文には「秋風ぞ吹く」とあり。あながちに「の」の方勝らず]

われを思ふ 人を思はぬ むくいにや
  わが思ふ人の 我を思はぬ
         (古今集 読み人知らず 1041番)

下上 (げぼんじょう、の省略)
 わづかにひと節(ふし)あるなり

吹くからに 秋の草木の しをるれば
  むべ山風を あらしといふらむ
         (古今集 文屋康秀 249番)

あらしほの 塩のやをあひに 焼く塩の
  からくもわれは 老にけるかな

[古今集には、
   おしてるや なにはの御津(みつ)に 焼く塩の
     からくもわれは 老いにけるかな
        (読み人知らず 894番)
上より遙かに優れたものになっている。]

下中 (げぼんちゅう)
 ことの心、むげに知らぬにもあらず

今よりは 植ゑてだにみじ 花すゝき
   穂に出づる秋は わびしかりけり
        (古今集 平貞文 242番)

わが駒は はやく行きこせ まつち山
  待つらん妹(いも)を 行きてはや見む

[万葉集の現在の読みでは、
   「いで吾(あ)が駒 早く行きこそ まつち山」
  となり、挙げられた例ほど、悪い歌にはならないか。巻十二の読み人知らずの歌]

下下 (げぼんげ、の省略)
 詞とゞこほりて、おかしき所なきなり

世の中の 憂(う)きたびごとに 身をなげば
  ひと日に千(ち)たび 我や死にせむ

[古今集には、
    世の中の うきたびごとに 身をなげば
      深き谷こそ 浅くなりなめ
         (読み人知らず 1061番)]

あづさ弓 引きみ引かずみ こずはこず
   こはこそはなぞ こずはそをいかに

[拾遺集では、
   あづさ弓 引きみ引かずみ こずはこず
      来(こ)ばこそはなぞ 来ずはそをいかに
          (拾遺集 柿本人麻呂 1196番)
と口調が改められている]

            (おわり)

2013/6/26作成朗読

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