八代集その十八 後撰和歌集 短詩

(朗読1) (朗読2) [Topへ]

はじめての八代集その十八 後撰和歌集 短詩

 こんばんは、山吹唄伊です。
  短詩を訳してみるように、宿題を出されました。
   すでに訳されてある、本文があるから、
  がんばってみます。
     どうぞよろしく。

 それにしても、
   ほんと詞書、多いなあ。
  そのうえ、手なおしまで、わたしの仕事って、
     それって、まさかのサボり?

春歌上 巻第一

けふよりは
  荻の焼け原 かき分けて
    若菜摘みにと
  誰(たれ)をさそはむ
          兼盛王(平兼盛) 後撰集3

今日から春ですね
  焼けた荻の野原を 分け入るみたいに
    若菜を摘みに行きましょうと
  誰をさそいましょうか

いつの間に かすみ立つらむ
   春日野の 雪だにとけぬ
  色と見しまに
          よみ人知らず 後撰集15

いつの間に
   かすみは立ったのでしょうか
  春日野の 雪さえまだ溶けないような
 気配だって思っていたのに……

[悪例として参考までに述べる和歌一例。詞書は省略]

うぐひすの
    鳴きつる声に さそはれて
  花のもとにぞ
     われは来にける
          よみ人知らず 後撰集35

うぐいすの
  鳴きます声に 誘われ 誘われ
 花のもとへと
   わたしは たどりつきました

花だにも まだ咲かなくに
  うぐひすの 鳴くひと声を
    春と思はむ
          よみ人知らず 後撰集36

花さえまだ 咲いてもいないのに
  うぐいすが つい鳴いてしまったような
 その声をたよりにして
    春だなあって思ったりしています

[悪例として参考までに述べる和歌一例。詞書はなし]

    「あひ知りて侍りける人の家にまかれりけるに、
        梅の木侍りけり。
      この花咲きなむ時、かならず消息(せうそこ)せん、
     といひけるを、音(おと)なく侍りければ」
うめの花
   いまはさかりに なりぬらむ
 たのめし人の おとづれもせぬ
          朱雀院兵部卿皇子 後撰集38
            (すざくいんのひょうぶきょうのみこ)

梅の花は
  今ごろさかりに なったはずなのに……
 期待しているあの人からの
   連絡さえありません

春歌中 巻第二

    「朱雀院のさくらのおもしろきこと、
      と延光(のぶみつ)朝臣のかたり侍りけれは、
    見るよしもあらましものを、
       などむかしを思ひいでゝ」
咲き咲かず
   我にな告げそ さくら花
  人づてにやは 聞かむとおもひし
          大将御息所(たいしょうのみやすんどころ) 後撰集61

咲いているとか 咲いていないとか
  わたしに教えないでください
 あのさくら花のことを
   人づてに聞くだけなんて
     思いもしなかったのに……

春歌下 巻第三

    「荒れたるところに住み侍りける女、
   つれ/”\に思ほえ侍りけれは、
     庭にあるすみれの花をつみて、
       言ひつかはしける」
わが宿に
   すみれの花の おほかれば
 来宿る人や あると待つかな
          よみ人知らず 後撰集89

わたしの家には
  すみれの花が たくさん咲いています
 ですから、訪れては泊ってくれる人が
    (あるいはそれは、あなたかもしれませんが……)
   あるかもしれないと思って待っているのです

「元良(もとよし)の皇子(みこ)、
  兼茂(かねもち)朝臣のむすめに住み侍りけるを、
   法皇のめして、かの院にさぶらひけれは、
  え逢ふことも侍らざりければ、
 あくる年の春、桜の枝にさして、
  かの曹司(ざうし)に、さし置かせ侍りける」
花の色は
  むかしながらに 見し人の
    こゝろのみこそ
  うつろひにけれ
          元良皇子(もとよしのみこ) 後撰集102

花の色は
  むかしのままなのに どうしてそれを眺める人の
 こころばかりが あの頃とはいつしか
   変わってしまうものなのでしょうか

みな底の
   色さへ深き 松が枝(え)に
  千歳(ちとせ)をかねて 咲けるふじ波
          よみ人知らず 後撰集124

みな底にうつしだされた
  色さえ 深みをおびたような 松の枝に
 まるで千年を重ねたみたい……
    藤の花が波打っているのです

夏歌 巻第四

木隠(こがく)れて
   さつき待つとも ほとゝぎす
 羽根ならはしに 枝うつりせよ
          伊勢 後撰集159

木(こ)の間に隠れながら
   五月の来るのを待っているの? ほととぎすよ
 そろそろ羽根をならしながら
     枝々を飛びうつってはみませんか。

旅寝(たびね)して
   妻恋ひすらし ほとゝぎす
  かむなび山に さ夜ふけて鳴く
          よみ人知らず 後撰集187

旅の眠りがさみしくて
    恋しさのあまり 妻を呼ぶのですか ホトトギスよ
  神さえいますその山に
      夜も更けてから 鳴き声がしています

つねもなき
   夏の草葉に 置く露を
  いのちとたのむ 蝉のはかなさ
          よみ人知らず 後撰集193

すぐに消えてしまいます
   夏の草葉に 置かれた露を
  いのちの頼みとするのでしょうか
     そんな蝉の はかなさというもの……

あまの川 水まさるらし
   夏の夜は ながるゝ月の
  よどむ間もなし
          よみ人知らず 後撰集210

天の川は
  今ごろ水かさが 増しているのでしょうか
 夏の夜は 流されてゆく月の
    よどむことさえないようです

秋歌上 巻第五

天の川
  渡らむ空も おもほえず
    たえぬわかれと
  おもふものから
          よみ人知らず 後撰集226

天の川を
  わたる夜空のことさえ 今は思いたくもありません
 だって、絶えることのない別れが
    待っているだなんて 考えてしまうから……

あき風の
   吹きくる宵は きり/”\す
 草の根ごとに こゑみだれけり
          「よみ人知らず」か? 後撰集257

秋風が
  吹いてくるような 宵になれば
 きりぎりすも
   (まるで恋人に飽きられたわたしみたい)
   草の根に震えるように
     みだれた声で鳴いていました

秋歌中 巻第六

花見にと 出(い)でにしものを
   秋の野の 霧に迷ひて
  けふは暮らしつ
          紀貫之? 後撰集272

あの頃は
  花を見るために 出かけたものでした
    この頃は 秋の野原の
  霧にまようみたいにして
今日も暮らしているのです

袖にうつる
  月のひかりは 秋ごとに
    今宵かはらぬ
  影と見えつゝ
          よみ人知らず 後撰集319

袖にうつされた
  月のひかりは 秋が来るたびに
    今宵も変わらない
  いつもの光のように思えるのですが……

    「八月十五夜」(?)
月かげは
   おなじ光の 秋の夜を
  分きて見ゆるは こゝろなりけり
          よみ人知らず 後撰集324

月あかりは
  おなじなのかな 秋の夜を
 いつもと違うと 思ってしまうのは
   わたしの こころのせいなのでしょう

をみなへし 花のさかりに
   秋風の 吹くゆふぐれを
  誰(たれ)にかたらむ
          よみ人知らず 後撰集341

おみなえしの 花のさかりに
   あき風が吹くような はかない夕ぐれを
  誰に語ったらよいのでしょう

秋歌下 巻第七

秋風に
  さそわれ渡る かりがねは
 雲ゐはるかに けふぞ聞こゆる
          よみ人知らず 後撰集355

秋風に
  誘われて渡るのでしょうか
 雁の鳴き声が
   雲のはるか向こうから
  今日こそ 聞こえて来るようです

秋の野に
   いかなる露の 置きつめば
  千々(ちぢ)の草葉の 色かはるらむ
          よみ人知らず

秋の野原に
   いったいどんな露を 敷き詰めたなら
  とりどりの草葉の
      すべての色は変わるでしょうか

遅く 疾(と)く
   色づく山の もみぢ葉は
  遅れ 先だつ
    露や 置くらむ
          在原元方(ありわらのもとかた) 後撰集381

おそく はやく
  それぞれ色づくような 山のもみじ葉は
 遅れたり 先だったりと
    露が置かれるせいなのでしょうか……

山風の
  吹きのまに/\ もみぢ葉は
    このもかのもに 散りぬべらなり
          よみ人知らず 後撰集406

山風の
  吹いてくる あい間 あい間に
    もみじの葉は
 こちらのおもて あちらのおもてへと
   散ってゆくようです

    「もる山を越ゆとて」
あしびきの
  山のやまもり もる山も
    もみぢせさする 秋は来にけり
          紀貫之 後撰集384

あしびきの山の
   山の守りの 守る山さえも
  もみじをさせるような
     秋はやって来ました

竜田川(たつたがは)
   秋にしなれば 山近み
 ながるゝ水も もみぢしにけり
          紀貫之 後撰集414

竜田川も
   秋になりましたら 山も近いものですから
 ながれる水さえ
    もみじ色に染まっていくようです

ひぐらしの
   こゑもいとなく 聞こゆるは
 秋ゆふぐれに なればなりけり
          紀貫之 後撰集420

ひぐらしの
  声さえ絶えることなく 聞こえて来ますのは
 秋も夕ぐれに なったものですから

冬歌 巻第八

        「親の、他にまかりて、
       遅く帰りければ、使はしける」
かみなづき
   しぐれ降るにも 暮るゝ日を
  君待つほどは ながしとぞおもふ
          人の娘の八つなりける 後撰集461

十月 しぐれのなか
  暮れてゆく今日だけど……
 あなたを待っているものだから
   長いなあって感じてしまうのです

松の葉に
   かゝれる雪の それをこそ
 冬の花とは 言ふべかりけれ
          よみ人知らず 後撰集492

松の葉に
  降りかかります 雪の様子を……
 冬の花なんて 言いたくはなりません?

恋歌一 巻第九

[朗読2]

    「あひ知りて侍りける人のもとに、
        返事見むとてつかはしける」
くや/\と 待つゆふぐれと
   いまはとて かへる明日と
  いづれまされる
         元良親王(もとよししんのう) 後撰集510

来るかな 来るかな なんて
   待っている夕ぐれと
 今日はこれまといって
    帰ってしまう朝(あした)と
  どちらのほうが
     つらいものでしょう?

       「返し」
ゆふぐれは
   松にもかゝる しら露の
 おくるあしたや 消えは果(は)つらむ
          藤原かつみ 後撰集511

夕ぐれは
 松にもかかるような 白露のなみだにさえ
   待つという希望がこもります
     けれども……
   なみだの置かれた朝には
 ただ消え去るみたいな
   寂しさだけが残されてしまうから……

世のなかに
  しのぶる恋の わびしきは
 逢ひての後の 逢はぬなりけり
          よみ人知らず 後撰集564

世のなかに
  隠してしのぶよな恋の
    侘びしさ、それは……
 ようやく逢えた後の
   逢えないさびしさなのです

恋歌二 巻第十

    「年久しく、通はし侍りける人につかはしける」
たまのをの
   たえてみじかき いのちもて
 とし月ながき 恋もするかな
          紀貫之 後撰集646

ネックレスをつないでいる糸の
   いつかは絶えてしまうような
      はかない命ではありますが……
  せめて長く結ばれたような
     恋もいたしましょうよ

恋歌三 巻第十一

    「あさがほの花、
      前にありける曹司(ざうし)より、
    をとこの開けていで侍りけるに」
もろともに
  をるともなしに うちとけて
    見えにけるかな
  あさがほの花
          よみ人知らず 後撰集716

一緒になって
   折る訳でもなく相手に こころゆだねるみたいに
  眺めていたものでしたっけ
    あさがおの花を……

恋歌四 巻第十二

 をとこの、
  ものなど言ひつかはしける女の、
   ゐなかの家にまかりて、
  叩きけれども、聞きつけずやありけん。
 門(かど)も開けずなりにければ、
   田のほとりに、蛙(かへる)の鳴きけるを聞きて

あしびきの
  山田のそほづ うち詫びて
 ひとり蛙(かへる)の 音(ね)をぞなきぬる
          よみ人知らず 後撰集806

一本足を引きずるみたい
   山の田んぼの案山子は あんまり苦しいものだから
  ひとりでかえる ひとりでかえるなんて
    蛙の鳴き声を真似しながら
      だらしもなく泣いているのよ

    「よしふるの朝臣(あそん)に、
      さらに逢はじと誓言(ちかごと)して、
    またの朝(あした)につかはしける」
誓ひても
  なほ思ふには 負けにけり
 誰(た)がため惜しき いのちならねば
          蔵内侍(くらのないし) 後撰集886

もう逢わないなんて……
  誓ってもやっぱり
 恋しさには負けてしまうのです
  だって 約束を違えたからといって
   たとえば そのせいで死んでしまうとしても
    あなたに逢えないくらいなら
   惜しいような命ではないのですから……

恋歌五 巻第十三

ながらへば
   人のこゝろも 見るべきに
  露のいのちぞ かなしかりける
          よみ人知らず 後撰集894

生き続けられたら
   あの人のこころも いつか見られるでしょうか……
  あまり恋しくて 消えてしまいそうな
     露のようなわたしの命が
    かなしく思われるばかりです

生き続けられたら
  あの人のこころも いつか見られるかもしれない……
    (……けれどもう それもかなわない)
   まもなく露のように消えてしまう
      わたしのいのちが かなしくてなりません

生きていてくれたなら
   あなたのこころだって いつかわたしのもとへ……
     (そんなことだって あったかもしれないのに)
  もうすぐ露のように消えてしまう
     あなたのことが かなしくてなりません

春がすみ
  はかなく立ちて わかるとも
 風よりほかに 誰(たれ)かとふべき
          よみ人知らず 後撰集929

春がすみみたい
  はかない恋が 立ちのぼっては 別れても
 風よりほかに
    誰にたずねたらよいのでしょう

    「思ひ忘れにける人のもとにまかりて」
夕やみは 道も見えねど
   ふるさとは もとこし駒(ごま)に
  まかせてぞ来る
          よみ人知らず 後撰集978

夕やみもふかくなり
   道さえ見えなくなりましたが
 なつかしいふるさとなら
    通い慣れた馬が覚えていてくれるから……
  わたしもそんな安らかな思いで
     こころのふるさとみたいな
        あなたのところへやってきました

    「おまけ」
夕やみも深まって
   道さえ分からなくなるくらい
    ふたりのこころは閉ざされてしまいました……
 ……うーんこれだと
    やっぱり、下の句のニュアンスが浮いちゃうか

    「返し」
駒にこそ 任せたりけれ
  あやなくも こゝろの来ると
    思ひけるかな
          よみ人知らず 後撰集979

馬にまかせて 来ただけなのね
   わたしったら なんて馬鹿なんでしょう
 あなたがこころから
     やって来たなんて思い込んで
    こんなによろこんでしまったりして

恋歌六 巻第十四

    「はじめて人に使はしける」
思ひつゝ
   まだ言ひ初(そ)めぬ わが恋を
 おなじこゝろに 知らせてしがな
          よみ人知らず 後撰集1012

秘めたまま
  どうしても言い出せないような わたしの恋心を
 このこころのままに
    あなたに伝えられたら……

    「つれなくはべりける人に」
恋わびて
  死ぬてふことは まだなきを
    世のためしにも なりぬべきかな
          壬生忠岑(みぶのただみね) 後撰集1036

恋しさのあまり
   本当に死んだ人なんて 実はいないようですが
 その初めての例に
    わたしはなってしまいそうです

しら雲の
   ゆくべき山は/も さだまらず
 思ふかたにも 風は寄せなむ
          よみ人知らず 後撰集1065

まるで白雲が
  向かうべき山さえ はっきりしないように
 わたしのこころは ただよっているのです
   せめて 恋するあなたへ 近寄るための
  風のたよりでも あればよいのですけれども……

雑歌一 巻第十五

    「世のなかを思ひうじてはべりける頃」
住みわびぬ
   今はかぎりと 山ざとに
 つま木こるべき 宿もとめてむ
          在原業平 後撰集1083

都会に住むのも 嫌になってしまった
   今はもうこれまでと 山里へ逃れて
 まきでも割りながら 生きる家でも探そうか

雑歌二 巻第十六

    「思ふ処ありて、前太政大臣に寄せてはべりける」
頼まれぬ
  憂き世のなかを なげきつゝ
 日かげにおふる 身をいかにせむ
          在原業平 後撰集1125

誰にも頼りにされない
   憂いにみちた世のなかを 嘆きながら
 日影の植物がひかりを求めるような
    この身をどうしたらよいのだろう

雑歌三 巻第十七

    「大輔(たいふ)がざうしに、
   敦忠(あつたゞ)の朝臣の、ものへ使はしける文を、
    持て違(たが)へたりければ、つかはしける」
道知らぬ ものならなくに
  あしびきの
    山踏みまどふ 人もありけり
          大輔(たいふ) 後撰集1205

道を知らない
  わけでもないのに
   (なにを考えて歩いていたのやら……)
 あしびきの山で
   足を迷わせてしまうような
     おろかな人って、いるんですね。

    「返し」
しらかしの 雪も消えにし
  あしびきの 山路を誰(たれ)か
     踏みまよふべき
          藤原敦忠 後撰集1206

;

白樫に降りつもった
   雪さえ消えてしまいましたよ
  こんなはっきりと 見分けがつくような
    あしびきの山路を いったい誰が
      迷ったりなんかするものですか

    「陸奥(みちのくに)の守(かみ)にまかり下れりけるに、
    武隈(たけくま)の松の枯れて侍るを見て、
     小松を植ゑつがせ侍りて、
      任果てゝのちまた、おなじ国にまかりなりて、
       かの先の任に、植ゑし松を見侍りて」
植ゑしとき 契りやしけむ
   たけくまの 松をふたゝび
  あひ見つるかな
          藤原元良(もとよし) 後撰集1241

植えた時 約束を交わしたでしょうか
  武隈の松よ お前とふたたび
 見つめ合うことになるなんて

雑歌四 巻第十八

    「ものに籠もりたるに、
   知りたる人の、つぼね並べて、正月おこなひて、
    いづるあかつきに、いと汚げなるしたうづを、
     落としたりけるを、取りてつかはすとて」
あしのうらの
   いときたなくも 見ゆるかな
  波は寄りても 洗はざりけり
          よみ人知らず 後撰集1262

葦の浦だからじゃないよね
   あなたの足の裏が とっても汚く見えるのは
  葦には近寄るはずの波なのに
     あなたのそばには寄せてこないで
        洗ってさえくれない
      そんな足なの……

    「ひとり侍りける頃、
    ひとのもとより、いかにぞとゝぶらひて侍りければ、
      あさがほの花につけて、つかはしける」
ゆふぐれの さびしきものは
   あさがほの 花をたのめる
  宿にぞありける
          よみ人知らず 後撰集1288

夕ぐれの さみしいものはなんでしょう
   それは朝顔の 花だけを頼りとするような
  そんな家には違いありません

離別 巻第十九 (前半部分)

    「みちの国へまかりける人に、
   火打ちをつかはすとて、書き付けゝる」
をり/\に
   打ちてたく火の けぶりあらば
 こゝろざす香を しのべとぞ思ふ
          紀貫之 後撰集1304

    「陸奥へ向かう人に、
   火打ち石と一緒に、書き贈る」
その時 その時
  石を打って焚く火の けむりがのぼったならば……
   こころざしに贈った その香りのなかに
  わたしを しのんで欲しいと思うのです

    「旅にまかりける人に、あふぎつかはすとて」
添へてやる
   あふぎの風し こゝろあらば
 わがおもふ人の 手をな離れそ
          よみ人知らず 後撰集1330

    「旅に向かう人に、扇を贈る時に」
添えて贈ります
  このあふぎの風よ もし心があるなら
 わたしの慕うあの人の
    手を離れないでいてください
  (もしかしたら あおいだ風が
     伝えられるかもしれないから……)

羇旅歌 巻第十九 (後半)

    「ある人、いやしき名取りて、
       遠江(とほたふみ)へまかるとて、
      初瀬川を渡るとて、よみ侍りける」
はつせ川
   わたる瀬さへや にごるらむ
 世にすみがたき わが身とおもへば
          よみ人知らず 後撰集1350

初瀬川を越えたなら
  渡った淵さえも 濁るでしょうか
   (それは 川底が荒らされたからではなく)
 世のなかに 澄んだ心でいられなかった
    このわたしのせいで……

    「土左より、まかりのぼりける、
    舟のうちにて見侍りけるに、山の端ならで、
     月の浪のなかより、出づるやうに見えければ、
      むかし、安倍のなかまろが、もろこしにて、
       ふりさけ見れば、といへることを思ひやりて」
みやこにて
   山の端(は)に見し 月なれど
 海より出(い)でゝ 海にこそ入(い)れ
          紀貫之 後撰集1355

みやこにいた頃は
  山の端から現れては
    山の端へと消えていった月ですが
  ここでは海からのぼっては
     海へと沈んでゆくのです

賀歌 巻第二十 (前半)

    「女八のみこ、元良のみこのために、
    四十賀し侍りけるに、菊の花をかざしにをりて」
よろづ世の
   霜にも枯れぬ しら菊を
 うしろやすくも かざしつるかな
          藤原伊衡(これひら) 後撰集1368

いつまでも 続きます世の
  霜が降っても 枯れないという白菊を
 これからも ずっとやすらかに
    あなたが かざしていられますよう

[「女八の皇子」というのは、
修子内親王(しゅうしないしんのう)のことでしょうか?]

哀傷歌 巻第二十 (後半)

    「時望の朝臣(あそん)、身まかりてのち、
    果ての頃ちかくなりて、人のもとより、
      いかに思ふらむ、と言ひおこせたりければ」
わかれにし
   ほどを果てとも おもほえず
 恋しきことの かぎりなければ
          平時望(たいらのときもち)の妻 後撰集1391

死に別れることが
  終わりだなんて 思いません
 恋しさというものは
   果てなく続いてゆくものですから

    「妻の身まかりての年の、
   師走(しはす)のつごもりの日、
    古ごと言ひはべりけるに」
亡き人の
   共にしかへる 年ならば
 くれゆくけふは うれしからまし
          藤原兼輔(かねすけ) 後撰集1424

亡くなった人が
  こよみと一緒に 帰ってくるような
    そんな新年であったなら
 暮れてゆきます 大みそかの今日は
   うれしく思われたでしょうけれど……

       「返し」
恋ふるまに
   年の暮れなば 亡き人の
 わかれやいとゞ 遠くなりなむ
         紀貫之 後撰集1425

恋しく思いながら
   年が暮れてしまったものですから
  亡くなった人との別れなど
     遠く感じられるくらいですが……
 それでもあの人への
    恋しさは年ごとに、
   きっと遠のいてゆくのでしょう。

P.S.
 あんまり自由に訳したのは、
   みんな添削されちゃいました。
  これってみじめな足かせ?
    それとも、皆さまのための尊い犠牲?
   なーんてね。
     いつかまた、お会いしましょう。
    じゃあね、ばいばーい。
          by 山吹唄伊

           (をはり)

掲載 2015/01/07
改訂+朗読 2015/03/20

[上層へ] [Topへ]