夏目漱石、三四郎3

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夏目漱石、三四郎3

九月

・明治当初は西洋文化の取り込みによって9月を新年度とする政策が取られたが、1886年に政府の会計年度が4月開始になると、次第に学校の入学なども4月が奨励されるようになっていく。やがて1900年(明治33年)には小学校が正式に4月入学とされ、1919年には高等学校が、1921年には(ジョスカンを記念してではないが)帝国大学も4月入学となった。したがって三四郎の時代はまだ9月に開始していた。
・ちなみに1900年が明治33年なのは、「明治の耳(33)はセンキュウヒャク」と覚えると、意味はないが何となく心地良い。

午砲(ごほう)

・当時はお昼に大砲で時間を知らせていた。1870年に午砲の制が出されて大都市では大砲を打つことが制度化されていた。「どん」という名称は大砲の音からそう呼ばれていた。

とっつき

・「取っつき、取っ付き」物事の初め、初めの印象といった意味の他に、「建物や場所に入る時に一番にはいるところ。入り口。」といった意味がある。

癇癪(かんしゃく)

・ちょっとしたことでも怒りやすい性質。またその怒った状態。

殊勝(しゅしょう)

・行いなどがけなげであり感心なこと。
・(仏教)もっとも優れている。

敬畏(けいい)

・「敬意」が尊敬の意を持つことに対して、こちらは「敬い恐れる」とか「畏(かしこ)まって敬う」ような時に使う。

人品(じんぴん)

・備わっている品位、人柄。
・風采や物腰。

スコット

・サー・ウォルター・スコット(1771-1832)。スコットランドの詩人、小説家。イギリスロマン派として括られる。エディンバラで生まれ、エディンバラ大学を卒業している。「アイヴァンホー」とか「湖上の美人」さらに「ロブ・ロイ」などで知られている。スコットランドでは紙幣に肖像が使用されている。

ゲシェーヒェン

・(ドイツ語)出来事。事件。

ナハビルド

・偽物。模造品。

ポンチ(ポンチ絵)

・1841年に創刊されたイギリスの雑誌「Punch,or the London Charivari」の日本語版「Japan Punch」に由来。風刺画や滑稽画によるその雑誌は、今日の漫画に到るとか。

久方の~

・「ひさかたの」は万葉集などで使用された伝統的な和歌形式の枕詞で、「天、雨、月、雲、空、光」などにかかる。「雲井(くもい)」は「雲のかなた。大空。」と言った意味で転じて「宮中、雲の上」の意味でも使用される。子規はホトトギスの異名・異漢字表記の一つ。第1章の正岡子規の樽柿の逸話同様、すでにお亡くなった子規を想い出して記したのかも知れない。 」

喜多床(きたどこ)

・1871年(断髪令の年)に創業された理髪店。客名簿には、夏目漱石の名も。

醵金・拠金(きょきん)

・あることを行うために複数で金を出し合うこと。

ナポレオン3世(1808-1873)

・ナポレオンの弟の息子。1848年にフランス大統領となり、51年にクーデターを起こし、翌年国民投票によって帝政をしいた。パリの都市改造や数々の対外政策を行うも、1870年にビスマルクが仕組んだ策略によって普仏戦争が開始。見事に敗北して、翌年イギリスに亡命し、その地で亡くなった。

義太夫

・文化庁のサイトより引用すると、
「義太夫節は、17世紀後半に竹本義太夫によって創始された三味線音楽で、その後、主として人形芝居の音楽として洗練されたが、江戸の後期から人形芝居とは別に、座敷や寄席などで、純粋の音楽としても盛んに演奏されるようになった我が国の代表的な伝統音楽の一つである。義太夫節は、太夫の語り(浄瑠璃)と三味線の演奏で構成され・・・。」と説明されている。

淀見軒(よどみけん)

・東京都文京区本郷にあった水菓子屋(果物屋)の裏で学生を対象にした食事処が西洋料理を提供していた。

ライスカレー

・ウィキペディアから引用すると、「カレーライスは日本にはヨーロッパを経由して紹介された。最も有力なのはインドを植民地にしていたイギリス人が日本に持ち込んだ説である。そのためインド風のカレーによる味付けをされながらも、日本では洋食として扱われてきた歴史がある。」だそうだ。

ヌーボー式

・アール・ヌーヴォー(仏:Art Nouveau)様式のこと。19世紀末に隆盛を誇った西ヨーロッパを中心とする芸術潮流。修飾美術を中心にして植物的な曲線美に生き甲斐を見いだしたその運動は、イギリス、オランダ、フランスなどで開花し、ヨーロッパ各地へ、さらにアメリカや日本にも伝わった。その名称はパリ万博のさいに出店したサミュエル・ビングの店の名前に由来する。

普請(ふしん)

・仏寺建立などに働いて貰うこと
・そこから、現在はもっぱら「土木、建築工事」を指す。

青木堂

・やはり本郷にあり、一階が洋酒や食料品と言った小売り店で、二階が喫茶店だった。

小泉八雲(こいずみやくも)(1850-1904)

・ギリシア生まれのイギリス人(今日ならアイルランド人だった)で名はパトリック・ラフカディオ・ハーンと云う文学者。日本に来て英語などを教える内に、日本人の妻(小泉節子)を娶り1896年に日本に帰化。一時住んでいた出雲の地にちなんで、出雲にかかる枕詞「八雲たつ」から小泉八雲となったとされる。1903年に東京帝国大学を退職したが、その後任が夏目漱石だった。

縁故(えんこ)

・血縁的なつながり。
・人と人との関わり合い。縁。よしみ。

寓意(ぐうい)

・間接的にほかの事柄の中に、ある意味を織り込むこと。

軽便(けいべん)

・大きさや重さ、使いかって、仕組みなどが簡単で便利なこと。

纏綿(てんめん)

・まとわりつく。からみつく。
・愛情が細やかな様子。

小さん

・3代目柳家小さん(やなぎやこさん)(1855-1930)。落語家で本名は豊嶋銀之助。

活溌溌地(かっぱつはっち・かっぱつぱっち)

・「溌溌」は魚が水の中で勢いよく跳ねる様子で、その躍動感がさらに「活」で高められたもの。つまり「活気に溢れて元気な様子」。

アフラ・ベーン(1640-1689)

・イギリスで初めての女性の職業作家。ウィキペディアの情報によれば、南米に移住し、オランダ人と結婚してアフラ・ベーンとなり、その後離婚してイングランドに戻り、さらにオランダのアントワープでスパイ活動などなさって、1670年頃にロンドンで文筆活動を行ったとされるが、まったく確証はないそうだ。
・「オルノーコ」(Oroonoko・1688)は、正しくは「オルノーコ、あるいは高貴なる奴隷」とい名称の作品である。彼女の代表的作品で、「高貴なる野蛮人」の観念を取り込んだものと後の作家に評価、影響を与えた。

物色(ぶっしょく)

・多くの中から好みのものや人を探すこと。
・物の形や色。

茶を飲んでは~

・「茶を飲んでは煙草をふかし、煙草をふかしては茶を飲んでいる」これは文節や文章などをABCCBAのように反転させるキアスマス(カイアズマス・交差並行法)の最小単位の例である。坊ちゃんでも見られるが、言葉のリズムを反転させるような面白みとして、ここでは使用されているようだ。

浴衣(ゆかた)

・湯帷子(ゆかたびら)の名称が省略されたもの。湯帷子は平安時代に登場し、もともとは入浴の時に裸ではなく、これを着たまま入浴していた。帷子(かたびら)は「片枚」の意味で単衣(一枚の布によるもの)ということ。これが安土桃山時代頃から、湯上がりの軽装衣料として用いられ始め、江戸時代に庶民のくつろぎ着となった。

ヘーゲル(1770-1831)

・ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルはベートーヴェンと同じ年にシュトゥットガルトに生まれたドイツの哲学者。ドイツ観念論の父ともされる。1818年からベルリン大学で教鞭を振るった。

体せる→体する(たいする)

・人の教えや意向を心にとどめて行動する。(三省堂・スーパー大辞林より)

醇化(じゅんか)

・余分なものを取り除き、純粋なものにする。
・教えによって感化する。

舌頭(ぜっとう)

・「舌の先端」の意味から、「弁舌(べんぜつ)・言葉」。

岑々(しんしん)

・頭などがずきずきと痛む様子。

無上(むじょう)

・これより上のない。最上の。

普遍(ふへん)

・広く行き渡る。
・すべてにあてはまる。共通的な。

向上求道(こうじょうぐどう・きゅうどう)

・「よりよくなる・より上に向かう」の意の「向上」に、「悟りを求める・真理を追求する」の意の「求道」が付いたもの。

不穏底(ふおんてい)

・「穏やかでない・危険をはらんでいる」という意味の「不穏」の底にといった意味。

疑義(ぎぎ)

・意味・内容がはっきりしないこと。疑わしいこと。(三省堂・スーパー大辞林より)

清浄心(しょうじょうしん)

・「清らかでけがれのない」といった意味の「清浄(しょうじょう・せいじょう)」に心が付き、「煩悩や罪のない清らかな心」といった意味の仏教用語。

発現(はつげん)

・表面上に現れてくること。
・ここでは、前後の言葉のリズムからいくと、「ほつげん」と発音したくなるところだ。

決定(けつじょう)

・(「けってい」のこと。)確定して動かないこと。信じて疑わないこと。
・(副詞として)必ず。きっと。一定(いちじょう)。例えば「決定勝つことでしょう」とか。

黙然(もくねん・もくぜん)

・何も喋らずに黙っているようす。

寄寓(きぐう)

・一時的に人の家に住まうこと。また「仮住まい」のこと。

ひめいち(姫市)(ヒメジ)

・沿岸の砂泥底に住む小魚。当時大分ではこれの粕漬けが特産になっていたらしい。

根太(ねだ)

・床板を支えるための横木。

いか様(いかさま)

・タコイカ大明神のイカの方を差すわけではない。
・「きっと、恐らく」「何としても」「どのよう」「なるほど」など多様な意味を持つ言葉で、ここでは「きっと」ぐらいの意味。

放遂(ほうちく)

・追い払うこと。

五十五円

・資料をもたない上に調べる気力が尽きたのでとりあえず、広田さんの借りようとする家が25円ぐらいで、精養軒の会合の会費が2円ぐらいだろうとのこと、三四郎が2、3円で冬シャツを買おうとしていることなどを、ぼんやりした脳みその中に浮かべてみて、面倒なので1円が7000円ぐらいかもしれないと、逃げを打って寝てしまう。どこかにみねこの貸した金が15万ぐらいだと書いてあったが、それだと1円が5000円ぐらいになる。ちなみに坊ちゃんの初任給は40円で、その後街鉄の技手として25円で働いている。その時の家賃は6円で、立派な貸家ではなかっただろうこと。さらに坊ちゃんが四国から9円では東京までの旅費が足りなかったことなども記しておこう。

疑惧(ぎぐ)

・疑い惧(おそ)れること。

性癖(せいへき)

・性格や性質の偏り。くせ。

片手に~

・夏目漱石は時々、文章使いのニュアンスの実験でもするかのように、その後顧みられないようなミニマムの実験を小説内で試みていることがある。この()は全体構造から見ると、文章内に組み込んだ方が煩わしくないだろう。もちろんこの一文は、少し後に記されている「三四郎はハンドルをもったまま」という部分に対応している。つまり枠を形成している。

造作(ぞうさく)

・家を建てたり、リフォームすること。その工事。
・顔の作り。
・作ること、作られたもの。

暈(つきかさ)→普通は月暈

・暈(かさ)とは虹と同じように、太陽や月の光が大気中の水滴に屈折、反射して出来る自然現象である。まわりに輪っかが出来ているやつやね。ようするに。だからといってよし子の背後に日輪の輪っかが登場して、立ち所に大仏様に変じてしまったわけではない。

放下(ほうげ)

・投げ棄てること。捨て去ること。

切長(切れ長・きれなが)

・目尻が細長く切れ込んでいる・こと(さま)。(三省堂・スーパー大辞林より)

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