鴨長明 「夫木和歌抄、掲載和歌」朗読

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夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)とは

 藤原長清(ふじわらのながきよ)(藤原家隆・いえたかの息子)の私撰により、1310年(延慶3)頃に成立した和歌集。全36巻。約1万7350首に及ぶ和歌は、万葉集以後の残された作品より、家集、私撰集、歌合、百首などから、これまでの勅撰和歌集に漏れた作品を採取したもの。春夏秋冬雑に分類され、さらに歌題により分類されて納められる。そこに納められた鴨長明の作品を、掲載朗読するのは、これほどの作品への評価が、あまりにもなされていないことに哀しみを感じるからである。彼の作品は、若気の至りのような意気揚々とつたない『鴨長明集』が現存するおかげで、かえって低く見なされているのではないだろうか。ながら朗読なので、こなれないのはお許しあれ。

[注意
 ただしこの掲載和歌のうちどれが鴨長明のものであるか、あるいは異なる人の和歌なのか、不明瞭な点が存するようだ。]

夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)収録和歌

明けわたる おきつなみまに ねをたえて
  かすみにやどる うき島の松

ともすれば 雪氣(ゆきげ)の餘波(よなみ) 猶(なほ)さえて
  しぐれにかへる きさらぎのそら

いとかけし そばのかたへの くち柳
  末ぞみどりに なほむすびける

櫻(さくら)ゆゑ かたをか山に ふせる身も
  おもひとげねば あはれおやなし

ちりのこる きさやま陰の おそ櫻
  あだなるものと 見えずもあるかな

ひばりたつ 美豆(みず)のうへ野に ながむれば
  霞ながるゝ 淀のかはなみ

むらさきに 春はふぢなみ たつた川
  これも神代(かみよ)の みづのいろかは

春したふ あすか川原の まつがえに
  けふさく藤の いろぞかはらぬ

かつしかや かはぞひうつぎ 咲きしより
  浪より通ふ まゝのつぎはし

住みなれし 卯の花づきよ ときふけて
  かきねにうとき 山ほとゝぎす

あしの葉にまがふ螢(ほたる)の ほの/”\と
  たどりぞ渡る まのゝつぎはし

よひのまの 月のかつらの うすもみぢ
  てるとしもなき 初秋のそら

聞きなれし 千鳥なくなり すみだ河
  いざこと問はむ 名におはずとも

とをつかは 岩間のをしの ひとつがひ
  さてしもすまば 山深くとも

むれわたる いそべのあきさ 音さむし
  のだの入江の 霜のあけぼの

あらち山 松のひゞきぞ ほのかなる
  風もやゆきに うづもれぬらむ

あづさ弓 いるさの櫻 いかならむ
  おしてはるさめ ふらぬ日はなし

ともしする のちせの山の さ月やみ
  おのれ火串(ほぐし)の むくひかなしも

みのおやま 雲かけつくる 峰の庵(いほ)は
  松のひゞきも たまくらのした

苔ふかき みのおのおくの すぎの戸に
  たゞ音するは 鹿の音ばかり

まきもくの そま山ざくら 咲きぬらし
  まきたつかたに かをる春風

[正しくは、「咲」は旧字]

おもふには 契(ちぎり)もなにか あさもよひ
  きのかはかみの しらとりの關(せき)

いなみのゝ はなのはごとに うつりゆく
  ながめの末は おきつ白浪

あはせてや いむとわぶらむ ぬばたまの
  ゆめ野の鹿の 諸聲(もろごゑ)になく

あきのよは ひとりしめのゝ さゝのいほ
  袖こそ月の やどりなりけれ

ふるさとの ひとにかたらむ くりはらや
  あねはのまつの 鶯(うぐひす)のこゑ

かたのなる もゝへがはらを つかのまも
  こひずやあらむ 花の都を

わかめ刈る よさの入うみ かすみぬと
  あまにはつげよ いねのうら風

うら島や よさの旅ねの 秋のそら
  はかなくあけし ならひのみかは

波かゝる かゞりやいづこ ひたち海の
  かしまが崎の 蜑(あま)のいさり火

かりのくる うき田の池の すみえずば
  よそに成りける 月をしぞ思ふ

かさこしの みねこえくれば きそぢ川
  波もひとつに うつせみの聲(こゑ)

浪かくる たまものねやの ひじきもの
  あまにや何を とふの浦びと

岩代(いはしろ)の 玉まつがねの いし井づゝ
  むすべるかげを またむすぶかな

ふりにける とよらの寺の 榎(え)の葉井(はゐ)に
  なほ白玉を のこすつきかげ

よひの間の 月のかつらの うすもみぢ
  てるとしもなき はつ秋の空

あれにける 高津の宮の あさぢはら
  なほたましきの むらさめの露

あけぬとて ひとりたつたの 山のはに
  あり明の月は たかやすの里

八千代へむ 君のためにと 神やまの
  しらたまつばき 卯杖(うづゑ)にぞきる

ことわりや 絶ゆればこそは みだるらめ
  ふしゝげかりし 賤(しづ)のしげ絲(いと)

こけむしろ 雲にかさぬる よはのそで
  ぬきわかるゝは みねの松風

2012/12/21

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