源氏物語、あらすじその3

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続く世界は薫(かおる)物語となる

 源氏一門の権力は揺るがず、若き薫(かおる)は源氏の子として、今上帝の三の宮である匂宮・におうのみや)と共に、当節(とうせつ)の美男子として君臨しつつあった。匂宮もまた、源氏の娘である明石中宮と今上帝の息子である。一方で薫の方は、真実は死んだ柏木の息子であり、亡き源氏の君と血の繋がりはなかった。

 この薫という男、生まれながらに不思議な性質を持っていた。心地よき芳香(ほうこう)を体から発するというのである。立ち去りてなお、彼の来たることを誰もが知るほどであった。その気になれば、両手両足に花ならぬ女性の皆さんをはべらせることも可能な男であったが、自分の出生に疑いを持ち、仏教に心引かれて出家を望むような青年で、源氏とは異なりプレイボーイに大切な外的な情熱、いわゆる「やんちゃ魂」に欠けたる所があった。

 一方匂宮はやんちゃ者である。薫の不思議な芳香に対抗すべく、人工の香水を駆使して身にまとい、これをプレイボーイの柱に押し立てた。彼にとって女は落とすべきものである。こうして今をときめく二人は、「薫中将(かおるちゅうじょう)」「匂兵部卿(におうひょうぶきょう)」と人々から注目されていた。

 その頃である。源氏の息子の夕霧は、落葉宮と雲居雁の二人の妻の間を行ったり来たりしながら、やがて匂宮か薫に娘を嫁がせたいものだと考えていた。 [42. 匂宮、または匂兵部卿]


 かつての頭中将の息子の一人で死んだ柏木の弟に、紅梅大納言(こうばいだいなごん)という男がいた。彼は実は前にも何度も原文に登場する男であるから、名前を覚えておいても損はない。彼は妻の死後、真木柱(まきばしら)と再婚した。「その2」でちょっと説明したが、彼女は玉鬘を奪った髭黒(ひげぐろ)が、もとの正妻との間に生んでいた娘だ。真木柱は一度、蛍兵部卿宮の後妻となり、娘の東の姫君(ひがしのひめぎみ)を生んでいた。しかし夫が亡くなった後で、娘を連れて紅梅大納言のもとへ嫁いだのである。一方紅梅大納言のもとにも前妻との間に、大君(おおいぎみ)中の君(なかのきみ)という二人の娘があった。再婚の後、この三人の娘らは、ほどなく打ち解け合ったのである。

 その大納言が、娘のうち中の君を匂宮の妻へと願い出た。しかし匂宮はむしろ東の姫君に心ひかれている。そして東の姫君の方は、結婚よりも尼になろうなんて考えたりしている。結局大納言の望みは果たされないのであった。 [43. 紅梅(こうばい)(偽作?)]


 肝っ玉母さんとなった玉鬘は、髭黒が亡くなった後、三人息子二人娘を成長させ、今は長女の大君(おおいぎみ・おおいきみ)(上の娘の意味でもちろん前出の大君とは別人)の結婚問題を抱えていた。今上帝、冷泉院、さらに薫やら、夕霧の息子である蔵人の少将(くらんど・くろうどのしょうしょう)など沢山の求婚者が群れをなす。結局冷泉院に嫁がせた。薫りのがっかりは相変わらず冷静である。蔵人の少将は心底意気消沈である。しかし娘の大君は、冷泉院の子供を設けた後、弘徽殿女御の嫉妬を恐れて、玉鬘のもとに逃げ帰ってしまった。玉鬘は選択ミスかと嘆いたりしている。[44. 竹河(たけかわ)(偽作?)]

宇治十帖と呼ばれる部分

 亡き源氏の異母弟である八の宮。彼は宇治で半ば隠棲(いんせい)の生活をしていた。仏心生活に憧れをもつ薫は、彼のもとを訪れることにした。しかしそこで彼の娘たちと知り合い、いつの間にか大君(おおいぎみ)(上の娘の意味でさらに前出の大君とは別人)に憧れてしまったのである。大君(おおいぎみ)すごっくいいと、心ときめいている。

 ある日、八の宮が娘らの将来の面倒を宜しく頼むと薫に願う。しかし、館でかつての事情を知る侍女が居て、どうも驚く、薫の出生の秘密を、本人に伝えてしまったのである。自分は柏木の子である。心には冷たい風が吹く。[45. 端姫(はしひめ)]


 匂宮は、都へ戻った薫から宇治の美女の話を聞かされた。ベースボールがプレイボールで開始するがごと、彼の中でプレイボーイの声がする。いてもたってもいられない。さっそく薫と共に宇治に出かけ、匂宮は八の宮の中の君(なかのきみ)と文通など開始した。

 ところがどすこい、厄払いに出かけたはずの八の宮が、厄を払いそこなったものか、その地にてお亡くなりてしまったのである。後見として葬儀を執り行った薫だったが、やがて中の君と匂宮の婚姻を持ちかけつつ、憧れの大君に愛を打ち明けるのだった。しかし想いは遂げられない。一方、中の君への想い乱れる匂宮は、夕霧が娘を嫁がせたいと提案してもまるで上の空である。[46. 椎本(しいがもと)]


 八の宮の一周忌。一途の薫が大君に想いを打ち明ければ、大君は独身で過ごすと答え、薫を受け入れようとはしない。かえって中の君と薫の結婚を進めようとしているようだ。我慢たまらない薫は、ついに娘の部屋に突入を試みるが、大君はお隠れ遊ばし、中の君だけが控えている。このまま結ばせようという積もりかしらん。しかし薫は中の君と語るだけで、決して手は出さなかった。

 薫は考えた。ここは匂宮のやんちゃ熱を利用するしかない。さっそく宇治へ呼び、中の君と逢い引きさせてしまう。その後で、大君に結婚を迫るが、心開かない大君であった。

 やがて、中の君は匂宮が来なくなって心配し始めた。その頃、今上帝らの戒めにあって、匂宮は中の君のもとへ来られなかったのだ。今上帝はさらに、夕霧の娘である六の君(大殿の君・おおとののきみ)と匂宮との結婚を推し進めようとする。これを聞いた妹思いの大君は、お優しくなってしまった・・・では意味が分からないか。つまり今までの心労高じて大病にかかり、ほどなくして薫に看取られて亡くなってしまったのである。薫は放心状態で葬儀を取り仕切る。匂宮の方はといえば、ようやく二人の仲を認めて貰い、中の君は都に迎えられることとなった。[47. 総角(あげまき)]

 薫の采配で無事都へ引っ越した中の君は、ようやく匂宮の邸宅に入ることとなった。大君が亡くなった後、次第に中の君への想いが沸き立つ薫は、少しばかり後悔している。そんな薫を夕霧が攻める。娘である六の君の裳着(もぎ)を行い、予定変更して薫に結婚を打診したのである。しかし旨くいかなかった。その頃匂宮は警戒していた。後見人の立場を利用して、しばしば中の君を訪れる薫に、常ならぬものを察知したからである。[48. 早蕨(さわらび)]


 薫は今上帝(ただしくは現在の帝であるから、ただの帝)の娘、女二宮(おんなにのみや)を妻とすることを帝から勧められる。さすがにこれを断るわけにはいかない。これを聞きつけた夕霧は、右に左に大忙し。六の君をやっぱり匂宮へ嫁がせるべく行動を開始した。そして匂宮の母であり、源氏の娘であった、明石の中宮の働きかけもあり、ついには匂宮もこれを了承する運びとなったのである。現在妊娠中である中の君は、六の君の方が位が高いこともあり、まだ新婚であることもあり、様々に心煩わせていた。

 いざ出会ってみれば、殊のほかお美しかった六の君。ほくほく出かけていく匂宮の隙をぬうように、薫が中の君に近付いてくる。次第に恋心が高ぶってくる。中の君は薫の情熱を危ぶんで、かつて薫の愛した大君とうり二つの異母妹が居ると、薫に伝えてこれをそらそうとする。その頃になれば、ようやく匂宮は二人の関係を疑いだした。疑うとかえって中の君の所に居ることが増えて、中の君には好都合だった。

 中の君は息子を生み、同じ頃、薫は女二宮と結婚する。そして運命の出会いの時が訪れた。薫は宇治に初詣に出かけたのであるが、その帰りがけに見つけてしまったのである。話しに聞いた大君とそっくりの浮舟(うきふね)に出会ってしまったのである。ひと目見るやいなや、ぞっこんかれちまった・・・・・いや失礼。私としたことが下卑た言葉を使ってしまったようだ。つまり、たちまち心を奪われてしまったのである。[49. 宿木(やどりぎ)]


 浮舟は八の宮と、中将の君(ちゅうじょうのきみ)との間に生まれた娘である。しかし八の宮の正式の妻とはされずに、やがて中将の君は浮舟を連れて陸奥守(むつのかみ)と結婚した。つまり浮舟は受領の娘である。陸奥守は今では常陸介(ひたちのすけ)となった。(守ではなく介だが解説では受領の立場と説明されている。)

 薫はあまりの身分の差を考え一歩進めずにいる。それはそうだ。薫だったら天皇や院の娘を貰える位の地位の男である。相手の母親もまた、薫の気持ちを知らされつつも、身分の差を考え消極的態度であった。そこへ左近少将(さこんのしょうしょう)が資産の豊富な常陸介との血縁を考え、浮舟に求婚して来る。母は喜んで承知する。しかし喜びも束の間、浮舟が常陸介の実の娘で無いことが分かると、左近少将は常陸介の別の娘に鞍替えして、これと結婚してしまったのである。

 ショックの母は立ち上がる。中将の君は上京し、浮舟の実の父親、亡き八の宮の娘の一人である、中の君に浮舟を託したのである。ちょうど迫り来る薫の猛威に困っていた中の君は、妙案有りとてぽんと手を叩き、浮舟を薫に近づけようと思うのであった。

 しかし事件があった。匂宮が浮舟を見かけるやいなや、「すんばらしい!」と叫んでしまい、やんちゃの心に火がついてしまったのである。何とか匂宮の魔の手を逃れた浮舟は、三条にある東屋(あずまや)に移されることとなった。ここで薫が動く。それまで大胆な行動に出ることの無かった「良心派の?」「あるいは小心者の?」「現実主義者の?」薫が、意を決して浮舟を囲うべく宇治に移したからである。[50. 東屋(あずまや)]


 「プレイボーイというものは、陥落させ損なった羞恥を、征服によって克服するまでは、何事にも怯まないものである。」そんな格言はこの世にもあの世にも存在しないが、匂宮のやんちゃはみなぎっていた。浮舟が妻宛に出した手紙を探って、ついに宇治にプレイボーイが迫り来る。とうとう薫の声真似をして、浮舟を愛の言葉で包囲してしまったのである。このプレイボーイの必殺技の怖ろしいところは、違うと気が付いた時には、もう脱出できないところにあった。浮舟はすっぽりと匂宮に陥落させられてしまったのであった。恐るべしはプレイボーイ。後からのこのこやって来た薫が、「都に迎えますよ」なんて言うので、ますます苦しい浮舟であった。(・・・何のこっちゃ。)

 雪の降り積もる夜。プレイボーイがふらふらと寄ってきた。実は匂宮もそうとう浮舟に参っているご様子だ。今では浮舟も愛を返して、二人だけの世界に浸りきって居たのだが、当然ながらに薫にバレバレになってしまった。「裏切りすごっく悪い!」と書かれた手紙を見た浮舟は、二人の間で板挟みとなり、もはや行き場をなくして、入水(じゅすい)して身を果てる決心をする。飛び込む川は宇治川に他ならない。そしてその宇治川にまだ平等院は建立されていない。(・・・全然関係ないじゃないか。)[51. 浮舟(うきふね)]


 まだ末法(まっぽう)の世(1052年~)になっていなかったおかげで?助け出された浮舟。しかしそれはまだ誰も知らない。浮舟が居なくなって、残された手紙などから死が予感せられ、山荘は大混乱の体である。不祥事が世間に広まる前に済ませようと、慌ただしく葬儀が行われたが、遺体などもちろん存在しない。匂宮はショックで寝込んで、衝撃でふらふらする薫は、それでも世間人なので、表情を隠して匂宮のもとへ向かう。侍女などを通じて真相を聞くに付けても、宇治に浮舟を置き去りにしておいた自分の咎が湧き起こり、さえない心持ちで法事を取り仕切るのであった。

 しばらく後、明石中宮と今上帝の長女である女一宮(おんないちのみや)に心ときめかして、新しい恋などを感じてみる薫であったが、気が付けばまた亡くなった女たちを想っている。まあ好きにしたらよかろう。[52. 蜻蛉(かげろう)]


 比叡山の横川の僧都(よこかわのそうず)の母親と妹は尼である。宇治で母が病だというので、僧都は女人禁制の比叡山を降りたのであるが、偶然森で倒れている女性を発見する。これが浮舟だった。入水する前にさ迷い歩きそこに倒れてしまったらしい。僧都の妹の尼が、亡き娘の生まれ変わりだ言って大事に介抱する。これでようやく意識を甦らせた。しかし過去を語ることなく、念仏と手習いの一時を過ごす浮舟であった。

 ところが、妹尼の亡き娘の婿であった近衛中将が浮舟に恋心をいだき、妹尼も二人が一緒になったらよいと考え始める。この世にあっては同じ責め苦が果てなく続くのみと悟った浮舟は、下山していた横川の僧都に願い出て、颯爽と出家してしまったのである。

 やがて宮中で仏事を行った時、僧都がこのことを明石中宮に話す。するとこれが薫にまで伝わったので、薫は比叡山参詣とともに浮舟のもとを訪ね、事の真相を確かめようと決意した。[53. 手習(てならい)]


 横川へ出向き、僧都から浮舟のことを聞き出す薫。僧都は浮舟への薫の想いを知るものの、浮舟の求道(ぐどう)の道の煩いになるだろうと、これを断った。断ったが、実は浮舟に対して、「たとい還俗(げんぞく)して薫のもとに帰りても仏罰はなし」(とは書いていないが)と、還俗を匂わせる手紙をしたためておいた。

 浮舟の弟である小君(こぎみ)にこの僧都の手紙を持たせ、さらに自分の手紙を持たせ、薫は小野(おの)に住まう浮舟に贈ることとした。ところがである。浮舟は懐かしい弟の面会さえも拒絶した。もはや浮き世へ戻ることは決して無かったのである。

 いつしか帰らんと薫は待ち続けるものを、これほどたどたどしく語り返せないほどの有様で小君が帰り来たれば、不愉快で、「やらなければ」など思うことは様々にて、「誰かが浮舟を隠し据えたのではないか」「あの時置き去りにしたみたいに」と、我が御心の思いの限りを隈無(くまな)く・・・・・とその本には書かれているのであった。めでたし、めでたし。[54. 夢浮橋(ゆめのうきはし)]

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